賢人の知 名僧、リーダーから学ぶマネジメント術

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第1回エグゼクティブセミナー「賢人の知~名僧、リーダーから学ぶマネジメント術~」(朝日新聞社・東洋経済新報社共催)が3月28日、東京・中央区の浜離宮朝日ホールで開かれた。会場には、企業の経営幹部ら約160人が詰めかけ、浄土真宗本願寺派如来寺住職の釈徹宗氏、パソナグループ代表の南部靖之氏、東レ経営研究所特別顧問の佐々木常夫氏らが語る“マネジメントの神髄”に耳を傾けた。

ゲスト講演Ⅰ「身体と心を調える
~仏教から学ぶ自己マネジメント~」
浄土真宗本願寺派如来寺住職、釈徹宗氏

釈 徹宗
浄土真宗本願寺派 如来寺 住職 1961年生まれ、浄土真宗本願寺派 如来寺第19世住職、相愛大学人文学部教授。認知症高齢者のためのグループホーム『むつみ庵』、ケアプランセンターも運営。主な著書に『仏教ではこう考える』(学研パブリッシング)など。

僧侶、宗教学者、認知症高齢者のためのグループホームを運営するNPO法人代表理事として幅広く活躍する釈徹宗氏は、現代社会を生きる人々に役立つ仏教の教えを平易に説いている。

釈氏は「宗教は、生きる上で避けることのできない苦悩をいかに引き受けて生きていくか、について人類の知恵を体系化したものという側面がある。近代化の歪みを抱えて成熟した現代社会を生きるわれわれには仏教の知恵が役立つ」と語り、苦しみを引き受けるための仏教の知恵について解説した。

認識と現実のズレから生まれる苦悩のメカニズム 

日常の苦しみや悩みについて、釈氏は「認識と現実がズレた状態が苦しみとして現れる」という、米国の心理学者、レオン・フェスティンガーが提唱した「認知的不協和」の考えを紹介した。

特に、多様な価値観を尊重するために、自己決定が重視される現代社会は、自分自身を確立することが求められる一方で「自分を強くして、こうあるべき、という思いが大きい人ほど、認識と現実のズレが大きくなって苦しみやすくなる」と指摘。成長することが難しくなっていく成熟社会では「社会的公正さを担保して、いかにあるものを分かち合うか、という『フェアとシェア』の考え方が大切です」と訴えた。

原因が暴れないように調える知恵

では、認知的不協和に悩む現代人に仏教は、どんな処方箋を提示するのか。「ブッダが行き着いたのは、苦しみや悩みは結果であって、それを変えることはできないということでした」と釈氏は話す。そこで、原因があって結果があるという因果律の立場をとる仏教は、原因となる「自分の都合」に目を向ける。つまり「自分の都合は、どんなに正しくても、放っておくと暴れ出す。結果は変えられないが、原因を調えれば、結果も調う」と考えるのだ。

自分の都合を調えるには、身体、ことば、心の3つを調える。身体を調えるには、歩き方などの姿勢、食事、そして呼吸を調える方法もある。仏教の呼吸法は「心を込めて呼吸する」という意味のアーナパーナサティと呼ばれ、安般守意経という経典に書かれている。釈氏は、初歩の呼吸法として「数息(すそく)」を紹介。「いーーーち」と、ゆっくり数を数えながら、通常とは逆にお腹を膨らませながら長く息を吐き、お腹を引っ込めながら短く吸う、という呼吸法を推奨した。「いらいらした時にこれをやる。現実の問題は何一つ解決しないが、立ち位置を少しずらせる」効果があるという。

「最古の経典に『人は口中に斧を持って生まれる』とあるくらい、言葉に慎重な宗教」という仏教は、言葉の調え方として「時期は適切か、相手は適切か」といったチェックポイントを設けている。心の調え方について釈氏は「庭を眺めるような目で自分を見る『観』」について説明。「第三者的に物事を見ることで、心が偏らないようにすることができる」と述べた。

ひどいことを言われて嫌な気持ちになる「第一の矢」は防げないが、仏教の身体の使い方、心の動かし方といった技術で自分の都合を調えれば「同じくらい嫌なことを仕返してやろう」と思う「第二の矢」は防ぐことができ、一つの苦しみが次の苦しみを呼ぶ連鎖を断てる。釈氏は「ブッダは、仏教の効用について第二の矢を受けなくなる、と答えている」と締めくくった。

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