賢人の知 名僧、リーダーから学ぶマネジメント術

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ゲスト講演Ⅱ「これからの時代のリーダーの条件」
株式会社パソナグループ代表取締役
グループ代表、南部靖之氏

南部 靖之
株式会社パソナグループ 代表取締役グループ代表 1952年生まれ。76年起業。人材派遣を中心に連結子会社38社、従業員数約6,000名のパソナグループを一代で築き上げる。主な著書に『自分を活かせ!―僕はどうやって自己実現したか』(講談社)など。

大学卒業と同時に人材派遣ベンチャーを創業し、一代で東証1部上場の株式会社パソナを中心とする連結子会社38社、従業員約6000人の巨大グループを築き上げた南部靖之氏は、リーダーについて「数字や利益、流行といった目に見えるものにとらわれず、目に見えない本物を見抜く目と心が重要ではないか」という考えを示した。

寺に預けられ、とらわれない目を養う

釈氏に続いて登壇した南部氏も、父親の方針で、小学6年から大学卒業まで家の近くの寺に預けられ、早朝や学校から帰った後に、寺の手伝いをしたり、僧侶の話を聞いたりして育った、という。

数学は苦手だが、絵が得意だった南部氏は、絵をほめてくれた母に「多様な価値を認められることで勇気を得た」と述懐。父からは点数を他人と比べて一喜一憂するのでなく、前回よりどれくらい伸びたかに目を向けるように言われ「自分と戦うことを教わった」という。そして、住職からは「流行に惑わされず、風評にとらわれず、定説にこだわらず」と教えられた。この3人の影響が「大学を卒業しても就職にこだわらず、自信を持って起業することにつながった」と南部氏は振り返った。

卒業と同時に『社会の問題を解決する』という理念を掲げて起業した南部氏は、今も寺院で僧侶の話を聞き、利益にとらわれることなく「正々の御旗、堂々の陣で、どう社会を良くするか」について考えているか、を確認するという。南部氏は「寺での経験がなければ、パソナの経営哲学は、まったく違ったものになっていたかもしれない」と語った。

数字で測れない思いやり、文化の時代が来る

リーダーに求められるものについて南部氏は「思いやり」を挙げ、役員会でも「いくら知識、営業力があり、コンプライアンスが完璧でも、それだけではベストセラーになれてもロングセラーにはなれない」と話しているという。南部氏は、同社の役員は「能力か人柄のどちらかを選ぶなら、人柄で選ぶ」と断言する。

その先に見ているのは、これからの時代の企業、産業の姿だ。試験の点数を唯一の評価基準にする学校、業績の数字だけを追求する企業が、問題を起こす例は後を絶たない。南部氏は「数字では評価できない人同士の思いやりが大事になり、経済の数字では測れない文化の力が産業をつくる時代が来ると思っている」と未来を見ている。

38年かけてパソナグループを築いた南部氏は「これからの20年で、新たな事業を創造したい」と、ベンチャースピリットは尽きない。テーマの一つは、サッカーブームなど、時に社会に対して大きな影響力を発揮してきたアニメや漫画だ。「世界に誇れる日本の文化で、その影響力は日本経済を押し上げる原動力にもなるだろう」と話す。もう一つは、医療が必要な病気の手前にある未病という概念に目を向け、健康寿命を伸ばす未病産業の構築だという。

南部氏は、自分だけの夢ではなく、社会を喜ばせるような「志」を持つことが大切と強調。リーダー像について「志を持って人を引き付け、組織を動かすことが求められるのではないか」と語った。

鼎談「混迷の時代におけるマネジメント
のあり方と、リーダーの心構え」
株式会社東レ経営研究所特別顧問、佐々木常夫氏
浄土真宗本願寺派如来寺住職、釈徹宗氏
聞き手:
東洋経済HRオンライン編集長、田宮寛之

佐々木
常夫 株式会社東レ経営研究所 特別顧問 1944年生まれ。東レの主力である繊維事業の再構築などに取り組む。2003年株式会社東レ経営研究所社長に就任、2010年より現職。主な著書に『そうか、君は課長になったのか』(WAVE出版)など。

後半のパネルディスカッションでは、東レ経営研究所特別顧問の佐々木常夫氏が登壇。東洋経済HRオンラインの田宮寛之編集長の司会で、講演Ⅰの講師を務めた釈徹宗氏とともに、自分自身の気持ちのマネジメントや、部下・若手との向き合い方について語り合った。

冒頭、自己紹介した佐々木氏は、長男が自閉症、妻が急性肝炎やうつ病で入退院を繰り返すという家族の危機の中で、家事など家族のケアをしながら、仕事を続けてきた経験を振り返った。家と仕事の両方を見るワークライフバランスを支えたタイムマネジメントについて佐々木氏は「自分の生き方、働き方に決意と覚悟をする。仕事の工程表を作り、みんなで議論、工夫するのが極意」と語った。

孤独、つらさをどのように乗り越えるか

田宮寛之
東洋経済HRオンライン編集長

まず、田宮編集長は、参加者に経営幹部が多いことを踏まえて「企業の経営者から『孤独だ』という話をよく聞くが、どうすべきか」と質問を向けた。

釈氏は「相談上手な女性や若者は、相談するという行為自体によって回復する」と、中年男性も心のバリアを解く場を作るようにアドバイス。「仏教には『独生独死独去独来』という言葉がある。リーダーだけでなく、そもそも人は孤独で、だからこそ人とかかわるという順序が大事になる」と話した。佐々木氏も「リーダーの孤独はまだ幸せな孤独だと思う」と応じた。

また、田宮編集長は、仕事で失敗をしたり、自分への評価、人事に対する不満を抱えるなど苦しい時に、自分自身のマネジメントをどうするか、について尋ねた。

佐々木氏は、「人は置かれた環境の中で幸福も不幸も見つけられる」と強調。また、27歳で夫を亡くして佐々木氏らを育てた母親の「運命を引き受けろ」「頑張っても結果は出ないことはあるが、頑張らないと結果は出ない」という口癖に言及して「評価は能力や仕事の内容だけでは決まらない。仕事を認めてもらうための努力も必要」などと話した。釈氏は「自分に合った仕事を求めるのでなく、目の前の仕事に身体を合わせるという考え方もある」と発想を転換させてみる考え方を示した。

若手には、愛情を持って、自分の「地」で接する

「若手に対するしかり方、接し方で悩むリーダーも多い」と田宮編集長に話を向けられた佐々木氏は「ほめるが8、しかるが2」と言われるが、人それぞれだと主張。「全人格で付き合うのだから演技をしても仕方がない。地で接するしかない」と述べた。ただ、若い世代は「どうせ私は」と自己評価を低くして目標設定を下げる傾向があるとも指摘。「仕事のやり方を教え、目標を設定し、フォローして、成長させることは組織のレベルアップにもなる」ので、上司がサポートすべきとした。

釈氏はしかり方について「不機嫌は周囲に気を使わせ、場を支配できるが、共感されなくなる」と述べ「不機嫌に怒らないこと」をポイントに挙げた。また大学で学生に接している経験から、さとり世代と言われる今の20代について「ガツガツしたところが少ないが、フェアとシェアに対する感性が高く、成熟社会に適応しているかもしれない」と評価。公共性や持続性など彼らの関心に応じた、仕事の意義付けも重要とした。

同セミナーを紹介した朝日新聞の記事はこちら

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