野球界の新星現る?東京バンバータの大冒険 ヴェルディ51年目の改革主導する熊本浩志氏

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「その時点で僕の中にはバンバータを将来的に『総合スポーツクラブ』にする絵が描けていた。しかしヴェルディが同じ構想を持っているのなら、同じ周波数の人と組むほうが圧倒的に早いと思った。でも仲間からは、“クマカン(熊本のチーム内での呼び名)、なぜサッカーチームと組むんだ”という声が上がった。

話を聞いてみると、“野球界で名実ともに独自のポジションを確立したのに、なんでいろんな意味で手あかのついたヴェルディとくっつくのか”ということだった。なるほどな、と思った。“じゃ、世界一格好いいヴェルディをデザインすればいいじゃん、それならみんながハッピーだ”ということになった」

「ヴェルディブランド再建案」を勝手に提案

熊本は取締役の森本譲二に、100枚からなる「ヴェルディ再建案」を提案した。

「頼まれてもいないのに、勝手に提案したんです(笑)。置かれている状況とヴェルディが何をすべきかを、ヴェルディ目線ではなく世界のスポーツ界から見た目線で書いた。

“外はこうなっていてヴェルディはこうなっている”という蓋然性からの分析ですね。スポーツ産業はこれからこうなるのに、ヴェルディは50年、ブランドのメンテナンスを何もしていませんよね、だから現代に合ったアップデートをしなきゃいけない、と。

“東京ヴェルディはこれだけのポテンシャルがある”と資産の棚卸しをして、“ヴェルディには輝かしい栄光の歴史があるが、それはサッカーに限定されている。サッカーのパイの中で考えるのは限定的すぎますよ、もっと視野を広げないと”と言ったわけです」

そして熊本は新しい「軸」を打ち出そうとした。

「実はヴェルディの持っているいちばん大きな価値は『東京』なんです。東京という都市、文化、経済を背景にしてヴェルディというチームはある。ヴェルディは世界から見た“Tokyo”の象徴となるブランドを目指したほうがいい、と提案した。だから、新しい東京ヴェルディのロゴマークでは、東京とヴェルディの間は空いていない、ヴェルディというロゴ単独では使えないようにした」

この提案を東京ヴェルディの羽生英之社長は真正面から受け止めた。野球界ではこうはいかない。NPBもいろいろなコンサルタントや経営の専門家から提案を受けるが、オーナーたちはプレゼンが終わっても、ほとんどの場合、質問はおろか、一言も発せず、文字通り「黙殺する」のが常である。外部からの提案を受け止める柔軟さ、度量の大きさで言っても、サッカー界と野球界では大きな差があるといわざるをえない。

「羽生さんは、ヴェルディ生え抜きではなく、JR東日本からJリーグ事務局長になり、東京ヴェルディの改革に乗り込んできた方です。それだけに、我々の提案の価値がわかっていた。

でも、変革にはヴェルディの多くのステークホルダーを説得する必要があった。ヴェルディは日本で最も歴史があるプロサッカーチームです。社長の羽生さんが最終的にOB、現場スタッフ、ファンなどのステークホルダーをどうやって納得させるかが大事だと思った」

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