コロナ対策「10万円給付」案が検討されるわけ リーマンショック時を凌駕する総額12兆円に

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アメリカ議会の民主党はトランプ案に反対しているが、日米欧など主要7カ国(G7)が政策総動員で協調体制をとる中、安倍首相が1人10万円の現金給付案を打ち出せば、トランプ大統領への間接的な援護射撃になるかもしれない。トランプ大統領が総額2兆ドルという巨大な経済対策案を先に打ち出したことで、日本国内での現金給付案への抵抗感が和らぎ、「バスに乗り遅れるな」式に追従することが可能になっている。

もちろん、現金給付案が本当に実現するのか、はっきりしない。仮に10万円が実現すれば、4人家族だと40万円を受け取ることができる。1人10万円を配っても、それは消費でなく貯蓄に回ってしまうとの指摘は多い。しかし、40万円も給付されれば、一部はレジャーや耐久消費財などへ回る可能性は高いだろう。

ただ、現金給付を3万円や5万円とする案も取り沙汰されており、総額数兆円規模の給付にとどまる可能性もある。

ポイント還元制度の延長・拡充も

安倍政権は現金給付案とは別に、2020年6月までが期限のキャッシュレス決済での消費税ポイント還元制度(最大5%)の延長や拡充も検討している。拡充には加盟店向け手数料を抑えられているクレジットカード会社を説得する必要があるが、ポイント還元の期間を伸ばす可能性は高い。

キャッシュレス決済でのポイント還元は、購入額が大きいほどメリットが大きい。そのため、公平性を考えて、「ポイント還元拡充に一定額を配る現金給付を組み合わせる」説明が、安倍政権からなされるのは確実だ。

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コロナ危機に伴う経済対策は、4月中の閣議決定を目指して数週間でまとめられる予定だが、東京都の小池百合子知事が3月23日に「大規模な感染拡大があれば、首都の封鎖(ロックダウン)もありうる」と会見で語るなど、感染拡大防止のために人の移動を制限する必要性が引き続き高い。10万円を配ってレジャー活動や消費を活発化させても、人の移動が増えて感染が拡大すれば、元も子もない。

一方で、欧米での感染拡大で今後、自動車関連などの欧米向け輸出が急減するのは確実だ。中小企業への資金繰りや雇用維持の支援を一段と拡充することが急務となっている。安倍政権が、感染防止策との整合性や真に必要な手当てを熟慮せず、給付金額でのアピールにばかり気を取られたら本末転倒だろう。

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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