「児相への支援」はコロナ対策から学ぶべきだ 十分な装備が必須、新人ではなく「専門家」を

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つまりリソースの不足で、本来保護が必要であっても、もっと深刻な子どもがいるために、保護できない。また保護したとしてももっと深刻な子どもがいるから家庭復帰となってしまう。つまりトリアージを行政がしているのですが、絶対的に量が足りないので悪化してしまうという、行動経済学のアプローチ、公衆衛生のアプローチ、データサイエンスのアプローチどれを使っても、児童相談所は破綻している計算結果になるのです。これは職員の責ではありません。

職員への支援をどうすればいいか

1.司法の関与を
前回の記事(『「児童虐待防止政策」には致命的な問題がある』)に書いたように 、子どもの権利条約にのっとり、親子が分離・再統合する判断は司法が行うべきです。また、非常に不安なのは、DVと虐待を一体化して対応するという、海外では30年ほど前に失敗した政策を日本が導入する恐れがあることです。

わずか3800人の児童福祉司で今度はDVすべての対応をするのでしょうか。もうそんな余力はありません。現場も役割分担を求めています 。他国ではすみ分けができつつあり、国によってはDVケースであると児童相談所ではそもそも受理しないところもあります。

それでは他国はどうしているのでしょうか。虐待もDVも「裁判所」が判断しているのです。分離の可能性があるのならば裁判所なのです。この世界の常識を日本で主張すると伝わらないのが残念です。法務省は2月、児相向け相談窓口設置の政策「児童相談所の側面支援」を発表しました。つまり児相がやることの支援であり、主体的に対応しないことの表れであり、とても残念です。

2.数値のみで議論を
私は児童相談所の一時保護所の研究をしており、一時保護所を経験した児童に満足度や改善点などを毎年聞いています。そこからわかったことは、満足度と各自治体のリソースはきれいに関係性があり(マルチレベル分析といいます)、一時保護所が管理的ではなく、暴力もなく快適な環境というのは、少なくとも下記2つのいずれかを満たしているのです。

①人口10万人当たり定員7人以上(人口50万人であったら、35人定員以上)
②子ども1人当たり職員2人以上(非常勤は時間換算。子ども定員20人ならば、職員40人以上)

と数値で出ています。よってこれから一時保護所を作る自治体はこれら研究成果を取り入れているので、例えば新設予定の東京都文京区では人口22万人に対し、定員10人(①の基準は満たさず)ですが、職員25人(②の基準を満たす)ということになっています。よって運営次第では子どもが快適に過ごせる可能性が高いとなります。つまり職員の質やトレーニングうんぬんよりまず物量つまり環境が大事だということです。

このように、リソースはすべて数値で表せます。児童福祉は感情論ではなく、データサイエンスです。データで表すと、思ったより費用がかかることがわかると思います。

児童福祉を安く済まそうとすると負担が子どもにかかり、その子どもが大人になって納税者にならない可能性があります。つまり相互扶助の社会保障が成り立たなくなるのです。これは子どもだけでなく全員にとって不幸です。よって日本以外の先進国や発展途上国は子どもに投資するのです。

コロナウイルスの影響でお母さんの収入がなくなってしまった。でも国から学費免除や生活費の給付が十分あったから自分は卒業できた――。子どもは社会が助けてくれたことを忘れないでしょう。十分投資すれば必ず社会に還元してくれるのです。

いまこそ、行政ではなく政治が児童福祉について決断すべきです。これからこの分野で客観的な議論が進むことを期待します。

和田 一郎 獨協大学国際教養学部教授

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わだ いちろう / Ichiro Wada

筑波大学大学院人間総合科学研究科(社会精神保健学)修了。博士(ヒューマン・ケア科学)。専門はデータサイエンス。社会福祉士、精神保健福祉士。人口減少社会における公共サービスの在り方、行政DXの活用や震災・疫病などの危機時における子ども等の弱者の支援におけるデータサイエンスの活用 などを研究している。

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