【足達英一郎氏・講演】世界経済危機下のCSR(後編)
第12回環境報告書賞・サステナビリティ報告書賞
シンポジウム・基調講演より
講師:(株)日本総合研究所 主席研究員、ESGリサーチセンター長 足達英一郎
●オバマ政権のアメリカ
アメリカは、かつてCSRを相手にしない国だと言われた。日本は、アメリカを見ながら進路を決めるから、「CSRは、ヨーロッパの問題だろう」とよく言われた。しかし、昨年の11月10日にオバマが大統領選で勝利した後、すぐに政権移行経済諮問委員会が発足して17人の有識者が選ばれた。私が注目したのは、このリストにロバート・ライシュという名前があることだ。クリントン政権のときの労働大臣で、『暴走する資本主義』という著作があり、2008年に東洋経済新報社から翻訳本が出版されている。
ロバート・ライシュが言っているのは、先ほどのヨーロッパの理論と同じで、CSRというような生ぬるいことをやっていてはだめだというものだ。社会の問題に対しては、まず選挙民がそれに対処する要否を判断し、行政府が動いてきちんとした法律をつくることによってのみ、社会の福祉や厚生は向上すると主張する。
このようなCSRに対する批判論が、アメリカの中で必ずしも多いとは思わないが、このような人がオバマ政権の政権移行経済諮問委員会のメンバーになっているということを理解しなければならない。そうでなければ、なぜアメリカで排出量取引制度が導入されようとしているのか、なぜアメリカでジェンダーバランスの法律が強化されようとしているのか、そういうことを理解できないと思うからだ。「アメリカはマーケットメカニズムの国だ、自由な経済主義の国だ」と、レーガン政権以降、われわれは思ってきたが、それが大きく変わってきているという事実を見逃すわけにはいかない。
昨日、アメリカ大使館の主催で「オバマ政権とキリスト教会」という勉強会があり、メリーモント大学の教授が講演をした。アメリカのキリスト教会は、今まで強力な共和党の支持母体だったが、「ザ・ニュー・レジシャス・レフト(新たな宗教的左派)」というグループが誕生していると話していた。そういう人たちが、環境の問題、反核兵器の問題、教育の問題、医療改革の問題で、オバマ政権を支持しているというのだ。これも大きくパラダイムが変わってきているということの現れだろう。
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