【足達英一郎氏・講演】世界経済危機下のCSR(中編)

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

第12回環境報告書賞・サステナビリティ報告書賞
シンポジウム・基調講演より
講師:(株)日本総合研究所 主席研究員、ESGリサーチセンター長 足達英一郎

前編からの続き)

●そもそもCSRの出現は

 欧州でCSRという言葉が出てきたのが1995年だと言われているが、その頃の欧州委員会委員長・ドロールが、社会的排除、失業の問題に対して手を差し伸べる企業が必要だと呼びかけて宣言が出された。市場を否定するわけにはいかないが、ネガティブな要素が出てくることを何とか防ぐ道具としてCSRが発明されたのだろうと私は解釈をしている。

 1999年12月に、アメリカのシアトルでWTO(世界貿易機関)の第3回閣僚会議が開かれた。そこに世界中のNGOが集まって、この会議を中止させようとデモをしたり会場にピケ、バリケードを作ったが、このときが「CSRが必要だ」という社会からの声はピークであったと考えている。このWTO会議を2年くらいさかのぼれば、シェル石油の北海油田の問題、ナイキの問題など企業批判がピークを迎えている。企業も「このままではいけない、CSRで世の中の期待に応えなければならない」と舵を切っていくことになったのだろう。

 このようにCSRは、新古典派経済、市場グローバル化、小さな政府というイデオロギーがあったからこそ、その反作用として起こってきたと考えられる。

●大きなパラダイムの転換

 今、「100年に1度」とか、「チューリップバブル以来」の世界経済危機というが、私はその循環性を論じるより、これまでのパラダイムが変わったことを重視すべきと考えている。
 オバマ政権が、「オバマ版ニューディール」といわれる8000億ドルの公共支出を行い、「今、世の中を救えるのはマーケットではなく政策だ」というケインジアン的な考え方が支配的になっている。
 先般のG8の会議などでも、各国は表立っては否定するが、個々の事象を見ていけば、労働の問題を含めて非常に保護主義的なにおいがする政策はあちこちで出てきている。オバマの景気浮揚策も、「バイ・アメリカン」ということが文章の間に織り込まれているといっても過言ではない。また、欧州連合には、もともと国の財政赤字をGDPの3%以下に抑える「マーストリヒト条約」があるが、今、欧州27カ国のうちで10カ国近い国が、景気浮揚策のためにそのルールを破っている。

 日本でも、財政再建の議論を先送りにした補正予算が通り、公務員改革の議論なども先送りにしている。このように、時代は、「政策」と「保護主義」と「大きな政府」という形に歯車が動いている。これを、時代が逆行していると見るのか、あるいはスパイラル的に次のフェーズに移ろうとしていると見るのかは、これから数カ月の動きからわかるだろう。注意深く見ていかなければならない。

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事