東出昌大の謝罪会見に見えた慢心と聡明の矛盾 「お答えできない」連発は本当に失敗だったか

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厳しい見方をすれば、この日の会見と俳優としての姿にあまり差が見えなかったのは、「それがありのままの東出昌大さんであり、公私を問わず変わらない」からでしょう。少なくとも、俳優としての技量を批判されても、個人としての人柄を否定されるほどの受け答えではなかったはずです。

「妻が好き」すら言えない心理状態

そんなありのままの振る舞いは、「今、杏さんが好きなのか? 唐田さんが好きなのか?」という耳を疑うような質問を受けたときのコメントにも表れていました。のちにこの質問をしたリポーターが「『妻です』って即答すると思っていた」と語ったように、誰しもそう答えるのが妥当と思うでしょう。

ところが東出さんは、「妻を傷つけてしまう」ことを理由に明言を避けました。「妻です」と言い切ったところで、もともと比較されるレベルの存在ではないだけに、杏さんは選ばれたことにそれほどの喜びは感じないでしょう。

それよりも「じゃあ何で不倫なんてバカなことをしたのよ」と再び傷つけてしまうことを避けた選択は間違っていません。この場面では本心はさておき、「妻です」と言い切るほうが圧倒的に楽であるにもかかわらず、「今の自分はそれすら言う資格がない」「そう言っても妻のダメージになりそう」としか思っていない様子が伝わってきました。

このような受け答えを見て私が驚いたのは、「妻より浮気相手のほうが好きなことがわかった」「考えうる限り、最悪のコメントをした」などと決めつける人の多さ。表面上の言葉や表情しか見ず、自分の価値観を他人にそのまま当てはめる人に、事の本質は見えません。東出さんを擁護する気持ちはありませんが、この日の会見を見て批判の声をあげる人は、他人の家庭問題であることも含め、日ごろの不満や不安をぶつけるものを探しているだけにすぎないのです。

最後に1つ指摘しておきたいのは、記者たちの取材姿勢。記者たちは競い合うように質問を浴びせ、声が重なって聞こえないことも多く、「終了」の言葉も無視して話し続けました。まさに抵抗できない人間に対するサンドバッグ状態であり、「理由があるからやってもいい」というイジメの構図に近いものがあります。

記者たちの中には「このようなさらし者になることが禊につながる」と正当性を示す人もいますが、再生も含めた話し合いをはじめた夫婦の可能性を台なしにしかねない報道姿勢は、どう見てもやりすぎでしょう。

東出さんを叩くことに集中し、杏さんや子どもたちのことをまったく考えない記者たちの報道姿勢は時代錯誤。「個人の尊重が当然」という時代の中、目の前の人間しか見ない記者たちの姿は滑稽にすら見えますし、芸能界の悪しき慣習として今すぐにでも改めるのが望ましいでしょう。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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