在宅勤務で躍進!ビデオ会議「Zoom」強さの秘密 今までの会議ツールとは一体何が違うのか?

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最大の特徴は、ぎこちない映像にならないような配信技術だ。世界15都市にデータセンターを設けることで、利用者が最寄りのデータセンターに接続、海外とのビデオ会議でも遅延を減らせる。また、従来の他社製品ではサーバー側に画像を集め、接続しているすべての端末に一様に同じ画像を配信していた。だがズームでは端末や回線の状況を見ながら、必要な画像を必要な画質で送っている。

例えば、ズームは話している人だけを大写しにしたり、参加者全員を写したり、画面の写し方を利用者が変えられる。何十人もの参加者を写しているときに、1人を大写しにするときと同じ画質の画像を配信すれば、たちまち通信は重くなる。端末側の状態をつねに見ながら、どのような状態がいいのかリアルタイムで判断しているという。

こうした技術によって、ネット上でも顔の見えるコミュニケーションがスムーズに成り立つというわけだ。前出の佐賀氏は、「ほかのサービスとは世界観が違う。単に会議をオンライン化するということではない」と話す。

1対1で話したり、3~4人が集まって15分だけ話し合ったり、「いろいろなサイズのコミュニケーションができる。会議はあくまでその一部だと思っている」(同)。Eメールや「Slack(スラック)」などのチャットツール上で主催者から共有されたズームのURLをクリックすれば、数秒で参加できる。

中国出身エンジニアが起業し早9年

ズームの創業者は、中国出身のエリック・ヤンCEO。1997年に渡米し、ウェブエックス社でビデオ会議システムを開発したエンジニアの1人だった。シスコに買収された後も開発を続けていたが、品質に満足ができず、主要なエンジニアを引き連れて2011年に起業した。

Zoomは会議室に設置するテレビ会議システム用のソフトウェアも手がけている(写真:Zoom Video Communications)

発想の原点は、「コミュニケーションをビデオでリッチ(豊かなもの)にしたい」ということ。2019年10月にアメリカで開催された年次イベントで、「2035年にはズームを通してハグもできるようになり、ミーティング相手の同僚が飲んでいるコーヒーの香りも感じられるようになる。言語の障壁だってなくなる。そんな世界になれば、私も引退できる」と冗談交じりに構想を語っている。

ズームの特徴は、パソコンやスマートフォン上のビデオ会議だけではない点にもある。会議室に設置するテレビ会議システムやウェビナーシステムもある。他社製品の多くが単機能なのに対し、ズームはプラットフォームとして提供されている。日本での利用の8割はビデオ会議だが、今後はハードウェアメーカーと協力し、テレビ会議システムの市場も開拓していくという。

2019年10月には、英語版のみだが、AI(人工知能)技術を活用した自動の文字起こし機能を発表した。ズーム上で話していた内容をもとに、キーワードを自動抽出して議事録として記録することも可能だ。「英語であれば(音声から文字への)変換率が95%まで上がった。ただ日本語はまだ6割強ほどで、製品化するまでには至っていない」(佐賀氏)。

図らずも在宅勤務などのリモートワークを余儀なくされ、対応に追われている企業も多い。リモートで働きやすいツールを手がける企業間の競争はますます激しくなりそうだ。

中川 雅博 東洋経済 記者

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なかがわ まさひろ / Masahiro Nakagawa

神奈川県生まれ。東京外国語大学外国語学部英語専攻卒。在学中にアメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学。2012年、東洋経済新報社入社。担当領域はIT・ネット、広告、スタートアップ。グーグルやアマゾン、マイクロソフトなど海外企業も取材。これまでの担当業界は航空、自動車、ロボット、工作機械など。長めの休暇が取れるたびに、友人が住む海外の国を旅するのが趣味。宇多田ヒカルの音楽をこよなく愛する。

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