老舗みりん屋の店主がラーメン屋を始めたワケ 経営危機を救ったのは「ツイッター」だった

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ところが、1年前に状況は一変する。メインの取引先である食品加工会社から契約の打ち切りを言い渡されたのだ。

「糀富」のみりんは生産数が少ないため、問屋へ卸さず、酒店や雑貨店などと直接取引をしている。それだけに大口の取引先を失うことは死活問題だった。

「ドラマの『下町ロケット』を地で行く感じでした。そこに依存しすぎたウチにも責任があるのですが、毎月約100万円の売り上げがゼロになりました。それを見越して、みりんの容器やラベルなどの発注もかけているわけで、その支払いは待ってくれません。本当に目の前が真っ暗になりました」

お金をかき集めて何とか業者に支払いを済ませると、生活費がなくなった。ゲームソフトなどをリサイクルショップに持ち込んで現金化したこともあった。ギリギリの生活が続く中で、これまでフォローした人のつぶやきを見ているだけだったTwitterで、みりんを販売していることや週末限定でラーメン店をやっていることなどをつぶやいた。

100人足らずのフォロワーが10倍以上に

「もともと趣味でスロットストリートというスマホのオンラインゲームをやっていて、フォロワーはその仲間たちでした。私のツイートを見た彼らが拡散してくれたんです。それまでフォロワーが100人足らずだったのが3カ月ほどで10倍以上になりました。TwitterがCMのようになり、フォロワーで酒屋さんを営んでらっしゃる方からみりんの注文をいただいたりしました。本当にうれしかったですね」

Twitterの拡散が最も顕著に表れたのはラーメン店のほうだった。ゲーム仲間が遠方からわざわざ食べに来て、ブログに記事まで書いてくれた。それを見た読者がまた食べに来てはTwitterでつぶやく。その繰り返しでどんどん客が増えていった。

筆者も誰かのTwitterを見て、みりん蔵の店主が作るラーメンとはどんなものなのかが気になって食べに行った。もちろん、取材してみたいという気持ちはあったが、おいしくなければ読者に紹介しても仕方がないとも思っていた。

目の前に運ばれた「らぁめん」(700円)をひと口食べた瞬間、フードライターとしての血が騒いだ。抜群においしかったのである。

金・土・日曜日のみ営業の「富田屋」の「らぁめん」。鶏チャーシューと煮卵、メンマ、ネギ、ワカメ、海苔と具だくさん(筆者撮影)

まず、スープのまろやかでやさしい味わいに驚いた。醤油を使えば、多少なりとも味に角が立つが、それがまったくないのだ。これがみりんの力だと確信した。

石黒さんはラーメン店で働いたこともあり、10年前から自分で作っていたという。また、有名店を食べ歩き、シンプルな醤油ラーメンをはじめ、塩や味噌、つけ麺、まぜそばなどありとあらゆるジャンルのラーメンを研究した。最終的にたどり着いたのは、鶏ガラベースの昔ながらの中華そばだった。今、店で出しているのは鶏白湯ラーメンだが……。

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