金融市場の混乱が止まらない。3月9日、ニューヨークダウ平均株価は一時2000ドルを超す急落となり、S&P500指数はサーキットブレーカーが発動されて売買が停止される事態となった。株価下落、債券価格上昇(金利低下)の連鎖が止まらず、為替はドル円が一時1ドル=102円を割り込んだ。
さらに、原油価格も先週、サウジアラビアとロシアが減産で合意できず、サウジが一転、増産を示唆したことで、WTI原油で1バレル当たり41ドルまで下げ、先物では30ドルも割り込んだ。産油国の財政悪化という材料も加わり市場の混乱に歯止めがかからなくなった。
新型コロナウイルスの封じ込めは企業の生産や家計の消費などの経済活動を強制的に抑制することにほかならない。当初は金融市場もこうした時間帯が短期にとどまることを期待していた。実際、発信源の中国では新規感染者の増加数がピークアウトし抑えられる方向にある。だが、中国以外に感染が広がったこと、とくに、唯一経済が好調であったアメリカで不安が広がったことが混乱に拍車をかけた。
FRBの失策から信用危機のリスク
しかも、FRB(米連邦準備制度理事会)の0.5%という思い切った幅での緊急利下げは裏目に出た可能性が高い。BNPパリバの河野龍太郎チーフエコノミストは「新型ウイルスの感染防止のために、企業の生産や家計の消費などの経済活動をあえて抑制している状況にある。金融緩和は本来、経済活動を活発化させるためのものなので、効果を発揮できない。必要な政策は資金繰り支援ぐらいだ」と指摘する。
みずほ証券の大橋英敏チーフクレジットストラテジストは「すでに長期金利は歴史的低水準にあり、FRBの利下げが必要不可欠とは思えない。市場迎合的に利下げをしたことは、『FRBが経済理論に基づき行動する』という市場の期待を裏切った。むしろ現政権の政策遂行能力に対する信認低下につながった」と手厳しい。
さらに、「リーマンショックの後に金融機関の規制を強化したことで、金融機関が買い支えるほうに回るマーケットメイクができなくなっており、市場のボラティリティ(価格変動リスク)が大きくなりがちになる」(大橋氏)ことも混乱に拍車をかけているようだ。
怖いのは景気後退へのおそれが、こうした金融市場のリスクオフ、投融資の縮小・引き揚げを招き、それによって、大きな債務を抱える企業や政府が資金繰りに支障を来たし、連鎖的な破綻(倒産)が生じることだ。不安心理が起きてほしくないことを現実のものにしてしまう引き金を引く。先週末から、アメリカのハイイールド債(低格付けの高利回り債)が売られ始め、こうした信用収縮のスパイラルの局面に入ってしまったことが懸念される。
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