「逆ギレ」サウジは米国に「戦争」を仕掛けている 原油市場の崩壊後はいったいどうなるのか

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サウジはアメリカのシェールオイル業界をつぶそうとしているのか(右はサウジの実力者、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子、写真:Bandar Algaloud/Courtesy of Saudi Royal Court/ロイター/アフロ)

原油市場の急落に、歯止めが掛からなくなってきた。NY市場はWTI原油先物が日本時間9日の時間外取引で開始早々に1バレル=30ドルの節目まで値を崩した後、さらに一時30ドルを割り込んだ。先週末比で約30%もの大暴落となった。

背景には、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大や、それに伴う世界的な景気減速や需要の減少、感染拡大防止のための入国制限などによって航空需要が大幅に落ち込むとの見方がある。それに加え、6日に開かれた会合で「OPEC(石油輸出国機構)プラス」が追加減産の合意に失敗、この先減産どころか生産が増加するとの懸念が急浮上したことが背景にあるのは間違いない。

態度を一変させたサウジ、出荷価格を大幅引き下げ

OPECは5日に開催した加盟国のみの臨時総会で、ロシアやアゼルバイジャンなどの非OPECを加えたOPECプラス全体で日量150万バレルの追加減産を提案することで合意、ひとまず相場は落ち着きを取り戻すのではとの見方も浮上していた。しかし、翌6日のOPECプラスの会合ではロシアがこれを拒否。追加減産どころか、3月末まで有効となっている減産に関しても延長の合意がまとまらず、4月以降石油生産が増加する可能性が急浮上してきた。

6日の原油市場はOPECプラスの減産合意失敗を受けて売り一色の展開となり、WTI先物価格は41ドル台まで大きく値を下げていた。だが、それでもその時点では週明けにいきなり30ドルを割れるまでに値を崩すと考えていた向きは、それほど多くなかったのではないか。

相場がここまで一気に値を崩したのは、週末の間にサウジが態度を一変、4月以降の増産方針を明確に打ち出してきたことが大きい。特にサウジアラビアの国有石油会社で株式も上場しているサウジアラムコが4月の出荷価格を大幅に引き下げたことは、市場関係者にかなりの衝撃を与えた。

実は、サウジは通常長期契約を結ぶ際、出荷量だけを最初に決めておき、価格については前月の前半に翌月分のものを顧客に通知するという方式を取っている。その際の価格はベンチマークとなる価格との価格差として提示され、アメリカ向けなら「WTI原油プラス何ドル」や「同マイナス何ドル」とうった形となる。サウジは7日に顧客に価格を通知したが、これがアメリカ向けで前月から7ドル、欧州向けが8ドル、東アジア向けが6ドルのマイナスと、大幅な値引きとなったのだ。

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