「逆ギレ」サウジは米国に「戦争」を仕掛けている 原油市場の崩壊後はいったいどうなるのか

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一方でシェールオイルが脚光を浴び始めた当時、1バレル=60ドルとも70ドルともされていた生産コストは、その後の技術革新によって急速に低下し、現在では既存の油田で25ドルから40ドル、新規の開発でも50ドル前後と見られている。ただしこれ以上の大幅なコストの低下が期待しにくいことを考えれば、30ドル割れを試すような価格水準では採算割れとなるのは確実だ。それによって、経営破綻するシェール業者が続出する恐れは高いのではないか。

こうした状況を考えれば、今回はサウジに軍配が上がり、開発業者の破綻が続出する中でシェールオイルの生産はこの先減少に転じることになるかもしれない。しかしそれはシェールオイル業界に限ったことではなく、石油価格の急落や景気減速に伴う資本市場の収縮によって、既存の産油国に対する開発投資も大幅に落ち込み、長期的に石油生産が伸び悩む可能性は、極めて高いと考える。

スタグフレーションに陥るリスクが一段と高まった

今回の新型コロナウイルスの感染拡大や景気の減速によって、将来的に一番警戒すべきなのは、「中国をはじめとした生産の落ち込みによってサプライチェーンが分断され、コスト・プッシュ型の悪いインフレが起きるというシナリオである」と、これまでにも警告を発してきた。今回の原油価格急落によって、そうした懸念がさらに高まることになるだろう。

一方で、シェールオイルなどの開発が滞り、生産が伸びなくなってきたころに、FRB(米連邦準備制度理事会)をはじめとした世界の主要中銀の積極的な緩和策や政府の財政出動によって景気が持ち直し、原油需要がしっかりと回復してくるならば、需給が急速に引き締まる中で価格が70~80ドルまで一気に回復することがあっても、何ら不思議ではないところだ。

その後、こうした原油価格の急反発がインフレの進行に拍車を掛けるようになれば、FRBが金利引き上げに転じざるを得なくなることも十分にあり得るところだ。まだ十分に景気が回復していない段階で、こうした事態に陥るようなことがあれば、せっかく回復の兆しが見えた景気も、改めて大きく落ち込むことになるだろう。「景気が後退する中でインフレが進行する」というスタグフレーションに陥るリスクは、一段と高まったと考えておいた方がよい。

松本 英毅 NY在住コモディティトレーダー

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まつもと えいき / Eiki Matsumoto

1963年生まれ。音楽家活動のあとアメリカでコモディティートレードの専門家として活動。2004年にコメンテーターとしての活動を開始。現在、「よそうかい.com」代表取締役としてプロ投資家を対象に情報発信中。NYを拠点にアメリカ市場を幅広くウォッチ、原油を中心としたコモディティー市場全般に対する造詣が深い。毎日NY市場が開く前に配信されるデイリーストラテジーレポートでは、推奨トレードのシミュレーションが好結果を残しており、2018年にはそれを基にした商品ファンドを立ち上げ、自らも運用に当たる。ツイッター (@yosoukai) のほか、YouTubeチャンネルでも毎日精力的に情報を配信している。

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