2010年代に起きた事は1930年代の再来だったか 大国間の戦争は当面考えにくく問題は気候変動

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振り返れば、2010年7月、楊潔中国外相が、ASEAN地域フォーラム(ARF)外相会議で、居並ぶASEANの外相たちをにらみつけるように宣言した次の言葉ほど2010年代を象徴する言葉はなかっただろう。

「中国は大国であり、あなた方は小国だ、それは厳然たる事実だ」

古代ギリシャの歴史家、ツキジデスは紀元前5世紀のペロポネソス戦争を記した『歴史』の中で、超大国アテナイが中立国メロスに朝貢を要求するに当たって送った特使がメロスの民に向かって言い放った言葉を引用している。「強者はしたいことをする。弱者はしなければならないことを強いられる」

楊発言は、「21世紀のメロス通告」ではなかったか。

中国の攻勢は、南シナ海と東シナ海での、そして太平洋での「海への戦略的意思」の投射、南太平洋での「影響圏」形成、ユーラシア大陸、なかでも欧州との「一帯一路」接続と「勢力圏」拡大、AIとビッグデータを駆使する中国仕様の社会組織と政治体制の世界標準化へと広がっている。

中国の「問題」はquestionからproblemへ

ただ、その一方で、新疆ウイグル自治区や香港、さらには台湾など中華圏辺境・周辺におけるアイデンティティー遠心力の増大や腐敗と格差拡大の構造化、成長鈍化の長期化、グローバルメディアや気候変動による市民意識の変化など、中国の統治モデルと成長モデルが岐路に差し掛かっていることも仄見えてきた。2010年代は中国問題の「問題」がquestion からproblem へと変わった年代でもあった。

同時に、この時代はAI、5G、ビッグデータ、ブロックチェーンに代表される第四次産業革命の社会実装によってネットもリアルもまるごとIoTとコネクティビティの網に絡め取られることになった。それは多様化する社会と個人のニーズにピンポイントで応えるイノベーションを可能にする一方で、米国の巨大なプラットフォーマーのデータ支配と彼らが加速させるデータ主義への深刻な懸念を抱かせることになった。

一方、2013年、エドワード・スノーデンが米NSA(国家安全保障局)の盗聴作戦を暴露。また、ケンブリッジ・アナリティカがフェイスブック広告を利用し英EU離脱キャンペーンの政治影響力操作をしたことがその後、明るみに出た。SNSが「自由で公正な選挙」そのものの基盤を脅かすことを人々は知った。電子投票の時代はもう来ないだろう、という予感とともに。インターネットはスプリンターネットへと分断され、ダーク・ウェブのどす黒くおぞましい未来がすでに出現してしまっている。

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