2010年代に起きた事は1930年代の再来だったか 大国間の戦争は当面考えにくく問題は気候変動

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

しばしば2010年代は1930年代と比較されることになった。

英国の歴史家のイアン・カーショーは、両大戦間期(第1次世界大戦から第2次世界大戦までの時期)の欧州の危機を、民族・人種ナショナリズム、領土回復運動、階級闘争、長引く資本主義危機、の4つの危機の共振だったと述べているが、それはいま恐ろしくも類似的に共振し始めている。(Ian Kershaw)

2010年代は1930年代の再来ではない

その際、1930年代の欧州のファシズム政党が福祉国家を標榜し、一般国民を含めての支持を得たことは記憶しておくべきである。失業率の高まりと経済格差の広がりを前に、ナチスの暴力性を嫌い当初は背を向けていた女性も、1930年代以降の選挙では男性とほぼ同水準の支持へと変わっていった。実際、ナチス政権は職を失った人々に仕事をつくり、家庭につかの間の安定を与えたのだった。

『地経学とは何か』(文春新書)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

それにもかかわらず、2010年代は1930年代の再来ではない。

いま、大国間の戦争は少なくとも当面は、考えにくい。また、現代のポピュリズム運動は、軍国主義への傾斜を伴っていない。それに、気候変動が今後、全世界的な大問題となるだろうし、それが国境を越えた協力、とりわけ若者たちの連帯を生み出す可能性もある。それを可能にする世界の個々人をつなぐメディアを彼らは持っている。スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥンベリさん(当時16歳)の「失敗したら我々は許さない」国連演説はそうした気候変動国際政治の潮流の先駆けかもしれない。

【2010年代の10大地政学・地経学事件】
2010年7月  楊潔中国外相「大国・小国」発言
2010年9月  中国漁船、尖閣諸島海域に侵入、海上保安庁の巡視船と衝突。船長逮捕。中国、対日レアアース禁輸発動
2011年2月  エジプトのムバラク政権崩壊(中東秩序液状化へ)
2014年3月  ロシア、クリミア編入
2016年6月  英国、国民投票でEU離脱(BREXIT)決定
2016年7月  国連海洋法仲裁裁判所、中国の南シナ海埋め立てに違法判決。中国の南シナ海での主権を認めないとの判決内容。中国政府は「判決は無効であり、拘束力はなく、中国は受け入れず、認めない」と声明
2016年11月 トランプ、米大統領選挙勝利
2018年3月  ケンブリッジ・アナリティカのBREXIT投票操作報道
2018年12月 カナダ政府、ファーウェイの孟晩舟副会長を拘束
2019年9月  グレタ・トゥンベリ、国連演説(「失敗したら我々は許さない」警告)
*スプリンターネット インターネットがもはや万国共通のものではなく、規制や検閲によって国ごとに分断されている状況を指す。将来的には中国側と米国側とでネットが分断されることも危惧されている。
船橋 洋一 アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

ふなばし よういち / Yoichi Funabashi

1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒業。1968年朝日新聞社入社。北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、2007年~2010年12月朝日新聞社主筆。現在は、現代日本が抱えるさまざまな問題をグローバルな文脈の中で分析し提言を続けるシンクタンクである財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブの理事長。現代史の現場を鳥瞰する視点で描く数々のノンフィクションをものしているジャーナリストでもある。主な作品に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『カウントダウン・メルトダウン』(2013年 文藝春秋)『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』(2006年 朝日新聞社) など。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事