コロナ対策「一所懸命やってる」がチグハグな訳 多くの人が冷静さを失いパニックに陥っている

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つまり、日本の医療者には「一所懸命やっているからいいんだ」と考えてしまいがちな傾向があるということだ。だが本来、それは前提にすぎず、目的ではない。

『「感染症パニック」を防げ! リスク・コミュニケーション入門」(光文社新書)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

目的は、「一所懸命やった」その先にある――それが岩田氏の考え方だ。

たとえばアマチュアスポーツである高校野球においては、炎天下で選手たちが一所懸命やっていること“そのもの”が感動の対象になる。ミスをしても試合に負けても、「一所懸命やった」と許されるわけだ。

そして問題は、日本の医療者にも、同じようなアマチュアリズムを感じてしまうことだという。

もちろん、リスク・コミュニケーションについても同じだ。「講義を聞きました」「専門用語を覚えました」だけで満足してしまい、その先にある結果を出せず、結果を求めてすらいないということ。

足りないのはプロフェッショナルな内省

まだまだ、日本では効果的な(すなわち役に立って結果が出る)リスク・コミュニケーションは普及、定着していないのです。それは、感染症領域についても同様です。

感染症の周囲にあるパニックや不感症をどれだけ減らすことができたのか。感染対策にどのくらい寄与したのか。そういう結果が十分に求められておらず、吟味も十分でなく、プロフェッショナルな内省が足りません。
(『「感染症パニック」を防げ! リスク・コミュニケーション入門』より)

リスク・コミュニケーションにおいては、単に「お勉強」するだけでは不十分であり、コミュニケーションには技術、準備、訓練も必要。また、刻々と変化する状況に対する機微や応用も不可欠だ。

背後にある精神や真心も欠かすことができず、それはもちろん、感染症におけるリスク・コミュニケーションにおいても同様。

岩田氏は本書において、こうした考え方に基づき、「リアルで」「効果的な」感染症のリスク・コミュニケーションを論じているのである。

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マスクが入手困難になった結果、なぜかトイレットペーパーまでが品薄になってしまうなど、このところの騒ぎは常軌を逸している。多くの人が冷静さを失い、まさにパニックに陥っているように見えるのだ。

しかし、そんな状況だからこそ、本書が主眼とするリスク・コミュニケーションの重要性を認識しておくべきなのではないだろうか。

印南 敦史 作家、書評家

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いんなみ あつし / Atsushi Innami

1962年生まれ。東京都出身。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。「ライフハッカー[日本版]」「ニューズウィーク日本版」「WEBRONZA」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」など紙媒体にも寄稿。『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)など著作多数。

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