コロナ対策「一所懸命やってる」がチグハグな訳 多くの人が冷静さを失いパニックに陥っている

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医療従事者の間で、リスク・コミュニケーションという用語はとても有名で、誰もがその重要性を口にするのだという。

ところが、医療の現場で効果的なコミュニケーションはとられていないのだそうだ。リスク・コミュニケーションに関する文献やプレゼンテーションを見ても、「ポイント」を外しているような気がしてならないというのである。

なぜならそれらは、海外のリスク・コミュニケーションの資料や文献を、「そのまんま」直輸入しようとしているだけだから。岩田氏はそう指摘する。

人の心に届くメッセージを

海外の教科書を引用したり、専門家の「分析」や用語の「分類」が並んだ文献を読んだり、プレゼンテーションを聞いたりすれば、リスク・コミュニケーションという学問領域について「勉強」することはできるだろう。

だが、勉強と実際にやることは違う。にもかかわらず情報を呑み込んで、そのまま吐き出しているだけだから、結果に結びつかず、ただ「上滑り」してしまうだけの状態になっているというのである。

「自分の言葉」になっていない言葉を遣ったメッセージが、人の心に届くわけがありません。人の心に届かないメッセージが、人を動かすはずはありません。人を動かさないメッセージが、「効果的な」リスク・コミュニケーションを生むはずがないんです。
(『「感染症パニック」を防げ! リスク・コミュニケーション入門』より)

たしかに一般的なコミュニケーションにおいても、重要なのは「人の心に届く」だ。言い換えれば、リスク・コミュニケーションはあくまでも、コミュニケーションの一形態にすぎないということ。

普通のコミュニケーションすらきちんとできていないのに、リスク・コミュニケーションだけはうまくいくということはありえないわけである。

日本人はあるカテゴリーについて、「やりました」で満足してしまう傾向があるのではないかと岩田氏は指摘する。

日本の多くの医療機関では、「感染対策」というと、感染対策チームを作ることや感染対策のための会議をすることだと勘違いしています。チームを作ったり会議を開くのは、感染対策の手段に過ぎません。その結果、感染症や薬剤耐性菌が減るという「結果(アウトカム)」を得ることが目的なのです。
その結果を得ないまま、ひどいときには結果を吟味すらせずに、「一所懸命、感染対策やってます」と言って満足してしまうんです。手段と目的の顛倒ですね。
(『「感染症パニック」を防げ! リスク・コミュニケーション入門』より)
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