全国規模での臨時休校要請については、政府部内でも「強制する権限はない」「各自治体が混乱する」などの慎重論が根強かったとされる。しかし、安倍首相は27日夕の対策本部に先立ち、腹心でもある萩生田光一文部科学相と会談し、「慎重論を唱えた文科省などを押し切る形で決断した」(政府筋)とみられている。
安倍首相にとって、通常国会前半の最優先課題は2020年度予算の早期成立。2月27日には衆院予算委員会での予算審議が大詰めとなり、桜を見る会や東京高検検事長の定年延長問題などを追及する主要野党が、「最後の抵抗」(自民国対)として森雅子法相の不信任決議案などを提出した。
与党は日本維新の会の協力も得て、同日午後の衆院本会議で淡々と否決。その後の与野党交渉では28日の衆院通過の合意も取り付けた。安倍首相の決断はそうした国会状況も踏まえたもので、「絶妙のタイミング」(自民国対)でもあった。
首相決断に忖度し、石破氏らが会談
27日夜には、ポスト安倍の有力候補とされる岸田文雄政調会長、石破茂元幹事長ら有力4氏が都内で会食し、「コロナの感染拡大をめぐる政府対応に批判が強く、自民党を取り巻く環境は極めて危機的なので、結束して政府を支える」と申し合わせたのも、首相決断への忖度と受け取る向きが多い。
騒ぎから一夜明けた28日、衆院予算委はほぼ予定どおりに締めくくり総括質疑を実施、予算案はあっさり可決された。衆院本会議も予算案を可決、参院に送付したことで、予算の年度内成立が確定した。参院は週明けの3月2日から予算委での審議に入る予定だが、コロナ対策などで大きな失敗でもない限り、「3月下旬の早い段階で予算成立となる」(自民国対)とみられている。
臨時休校要請について、28日の衆院予算委で安倍首相は、「今がまさに感染拡大のスピードを抑制するために極めて重要な時期だ」と野党側の理解と協力を求めた。
これに対し、秋葉賢也首相補佐官(自民、衆院宮城2区)が26日に地元で政治資金パーティーを開いたことについて、国民民主党の渡辺周氏が「直ちに更迭すべきだ」と迫ったが、安倍首相は「開催の適否も含め慎重に判断すべきだった」と苦言を呈したものの更迭は拒否した。野党側も深追いせずに締めくくり質疑を昼前に終えて、委員会採決に応じた。
28日夕の予算案衆院通過を受けて、安倍首相は29日に記者会見し、新型コロナウイルス感染拡大への対応方針を具体的に説明する方針だ。与党内の「首相が国民に直接訴えるべきだ」(公明党幹部)との声を受けたもので、安倍首相は28日、「課題にどのように具体的に対応していくか、しっかりと私から説明したい」と語った。
ただ、立憲民主党の蓮舫副代表は「子どもだけ家に置いておけというのはあまりにも場当たりすぎ。ありえない」など、安倍首相を徹底追及する構えだ。突然の休校要請で対応に窮する地方自治体からも「場当たり的で唐突、国民の不安だけが広がっている」(中村時広愛媛県知事)などの不満や批判が噴出している。
28日の東京株式市場は売り注文が殺到し、日経平均株価は一時2万1000円を割り込む場面もあった。欧米も含めた「世界同時株安」の様相が強まっており、安倍首相らが「正念場の2週間」と強調する3月中旬までに、「感染拡大に歯止めがかからなければ、今回の大英断による支持率アップどころか、政権危機にもなりかねない」(自民幹部)。
2月29日の記者会見は「首相にとって、のるかそるかの大勝負」(同)となりそうだ。
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