「裁判官も人の子」と驚かされる情実人事の記憶 男性裁判官が「育休」を取ったら左遷された話

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最高裁の無為無策ぶりを明らかにしたこれら質問の効果は絶大で、翌年には早速、2人の男性裁判官が育児休業を取得している。

「裁判官の育児休業」に関する最高裁資料によれば、2006~2015年度の10年間の育休取得者数は680人。そのうち女性裁判官は657人で、男性裁判官は23人とある。

裁判所の意識を変えるきっかけを作った平野は、現在、立命館大学大学院法務研究科教授を務めながら、弁護士として医療過誤の被害者たちの弁護を担っている。かつて、法服を脱ごうと決めたときの心境を振り返って言った。

「憲法と良心に従って独立して仕事ができると思って裁判官になり、裁判所に入ったわけですが、育児休業を申請した途端に異分子扱いされるようになった。いまと違って当時は、夫の育児参加に理解のない裁判長がいて、人権保障の砦であるはずの裁判所なのに残念だなとの思いが募ったからです」

エリート裁判官としてのキャリアを捨てたことで、逆にそれまで気づくことのなかった裁判所の問題点を把握できるようになったと、平野は続けた。

「辞めて感じることは『上から目線』」

「裁判官を辞めて感じることは、裁判所の上から目線ですね。私が代理人のある医療裁判で、証言調書に明らかな誤記があった。『頻脈』と『徐脈』という意味が正反対になってしまう誤記だったので訂正を申し出たら、上申書を出せというわけです。自らが誤っていながら、そんなことを平気で言ってくる。

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また、分娩時に脳性麻痺になってしまったお子さんが両親とともに原告になっている裁判で、そのお子さんも出廷しているのに、弁論調書の出頭当事者欄に記載がない。最高裁で調査官も勤めたベテラン裁判長の法廷でしたが、次の期日に記載するよう求めても『別にいいでしょう』と言って訂正してくれない。それで『調書異議』という珍しい申し立てをしたこともあります。

この記載漏れは事実に反していて違法だと思いますが、そこまで問題視しないまでも、当事者の気持ちに寄り添ってほしいと感じることはあります。裁判所に絶望を抱えてきた人が、少しでも希望を持って帰れるようなところであってほしいとつくづく思います」

岩瀬 達哉 ジャーナリスト
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