「裁判官も人の子」と驚かされる情実人事の記憶 男性裁判官が「育休」を取ったら左遷された話
ちょうどその頃、民主党の水島広子衆議院議員は、男性裁判官の育休取得問題をはじめて国会で取り上げた。2001年11月16日の衆議院法務委員会で、水島議員は婉曲に平野の育休取得に触れたあと、最高裁に対し男性裁判官の取得が「つい最近まではゼロであった」理由を質した。
最高裁の金築誠志人事局長(のちの最高裁判事)は、「これは個々の裁判官の家庭事情で、夫婦で話し合ったりしてお決めになっている」「裁判所において子どもを持った裁判官が育休を取りにくいという環境にはない」と、木で鼻を括ったような答弁に終始したが、水島議員は納得せず、「男性の育児休業取得がほとんどないというような状況を見て問題意識を持たないということは、裁判官としてやや問題があるのではないか」と皮肉った。
そのうえで、取得によって不利益処分を受けた場合を想定し、救済対策を講じるよう重ねてこう求めている。
「育児休業法の第6条におきまして『裁判官は、育児休業を理由として、不利益な取り扱いを受けない』とされております。……裁判官の方は一般企業などの不利益取り扱いを裁判で判断するお立場であるわけですから、ぜひその見本となるような、透明性のある、不利益取り扱いの具体的な処理というのをしていただければと思います」
8年後も取得者は1人のままだった
水島議員の質問から8年後の2009年11月27日、今度は公明党の木庭健太郎参議院議員が、男性裁判官の育休取得者数について質している。答弁に立った当時の人事局長でのちに最高裁長官となる大谷直人は、取得者はいまだ平野1人で増えていないと答えると、木庭議員は気色ばんだ口調でたたみかけた。
「こういうふうにならないように法改正出されたんでしょうが、なぜこんなふうになっているのか。どういうご認識でしょうか」
ここで言う「法改正」とは、男性裁判官の育児休業を促進するための「改正裁判官育児休業法」のことである。男性裁判官の育休の取得が一向に進まないなか、法改正で体裁を取り繕っても意味がないと批判したのだ。
大谷人事局長は、いかにも苦し気に答えている。
「ちょっと原因について、なぜ取得しないのかということはつまびらかではありません」
続いて質問に立った共産党の仁比聡平議員は、男性裁判官の育児休業取得者が増えないのは、実質的な制度保障がなされていない証左だとして、この実態をどう認識し、どう原因分析しているのかと追及した。サンドバッグ状態の大谷人事局長は、しどろもどろ状態となりこう答弁するのがやっとだった。
「男性裁判官についてこの権利を保障していないというようなことは、われわれは毛頭考えておりません。ただ、現実としてだれもまだ取得申請もしていないということについて何らかの考えなければならないところがあるということは、もう委員のご指摘のとおりだろうと思います」
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