「裁判官も人の子」と驚かされる情実人事の記憶 男性裁判官が「育休」を取ったら左遷された話

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組織の暗黙の規律に背いた人間は冷遇される(写真:xiangtao/PIXTA)
人を裁き、国を動かし、時には命を奪うこともある――巨大な権力を持つ裁判官だが、その生態はほとんど知られてこなかった。ジャーナリストの岩瀬達哉氏は、新刊『裁判官も人である 良心と組織の狭間で』で100人以上の裁判官を取材し、彼らの素顔と本音に迫った。
浮き彫りになったのは、最高裁事務総局を頂点とする「見えない統制」。その世界では、組織の暗黙の規律に背いた人間は冷遇される。例えば「育休」をめぐっては、こんな事件が起きた。

時代の変化とともに、世代間の亀裂は常に深まるものだ。裁判官の世界も例外ではない。

かつて、司法研修所で行われたベテラン裁判官と元高裁裁判長らによる研究会でも、若手裁判官の意識の変化について議論が及んだことがある。

出席者の1人は、若手裁判官が「裁判を事務程度に考えやすく、裁判官としての背筋を伸ばした姿勢は保てなくなってゆくのではないか」と述べたあと、そのさま変わりぶりに危機感を覚えると続けた。

判決起案が迫るタイミングで何を優先するか

「例えば、判決起案が差し迫っていても、それを差し置いて、夏休みには家族で海外旅行へ行く。冬休みにはどこそこへ行くといったライフスタイルを崩さない。少々の忠告というか苦言を呈しても崩さない。こういう裁判官がだんだん目につくようになっている」

3人の裁判官で審理する合議体の場合、判決起案は、まず若手裁判官の左陪席が作成し、それに裁判長が手を入れたのち、中堅裁判官の右陪席も加わり、3人で合議した結果が判決文となるのが一般的だ。その原案を作成することなく旅行などに出てしまうと、どうしても合議が尽くせず拙速な判決となりかねない。研究会参加者は、それを心配しているのである。

いわゆるワーク・ライフ・バランスを重視する生活スタイルは、若手に限らず中堅裁判官にも及んでいると、別の参加者は指摘する。

「最近の若い人たちは、家に仕事は持ち込まない。そこで、21時、22時まで役所に残って仕事をする。それから、土曜日、日曜日のいずれか1日役所に出てきて仕事する。これは(若手の)左陪席の仕事のパターンです。(比較的ベテランの)右陪席は、家に帰ったら、子どもの面倒を見てお風呂へ入れなきゃ駄目だから早く家に帰るけれども、家ではあまり仕事ができないという方もいます」

ライフスタイルの変化がこのように議論の俎上に載ったのは、彼らへの不満だけでなく、裁判所がその変化に対応できていないといった問題意識があったからだろう。

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