2019年秋の第46回東京モーターショーで世界初公開された後、2020年2月14日に発売された本田技研工業の新型フィットを見て、デザインの方向性が先代と変わったと感じた人は多いだろう。初代に戻ったという印象を受けた人もいるかもしれない。
ただ最近のホンダのカーデザインを見ると、この変貌は必然だったのではないかと思っている。流れが変わったと感じるのは、2017年のフランクフルト・モーターショーで「アーバンEVコンセプト」として公開され、昨年のジュネーブ・モーターショーで市販型プロトタイプを発表した電気自動車「ホンダe」からだ。
ホンダeは、前後とも丸いランプ、水平基調の台形フォルム、最小限のプレスラインなど、シンプルでありながら心地よさがうまく表現されていて、各方面から高い評価を得た。その方向性は昨年発表された「N-WGN」の新型にも受け継がれていた。だから新型フィットもこの路線を踏襲するのではないかと予想していたのだ。
開発コンセプトは「用の美・スモール」
カーデザインをどのように進化させていくかはブランドによって異なる。ドイツ車のように基本は変えずに少しずつ時代に合わせていくブランドもあれば、会社やデザイン部門の方針でテーマを一新することもある。マツダの「魂動」はわかりやすい例だが、ホンダもアーバンEVコンセプトを機に新しい道を歩み出したようだ。
ただしブランドとして同じ方向を目指しても、車種によってコンセプトが異なるのは当然である。新型フィットは何を目指したのか。広報資料を見ると興味深い言葉を見つけた。開発コンセプトとして掲げた「用の美・スモール」だ。
用の美とは、無名の職人の誠実な手仕事によって、暮らしの中で使われることを考えて作られた民藝品が、実際に使われることによって輝く様子を表した言葉だ。民藝に新たな価値を見出すべく「民藝運動」を推進した思想家の柳宗悦が生み出した表現と言われており、物質的な豊かさだけでなく、よりよい生活とは何かを追求した姿勢も含まれている。
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