IT企業勤務の太田さん(仮名・30代)は、春節を日本で過ごし2月9日に駐在先の広東省・広州市に戻った。広東省の新型肺炎感染者は1300人を超え、中国では湖北省に次いで多い。
それでも太田さんは、広州は比較的安全だと感じている。「こちらでは在宅勤務です。自分の住んでいる集合住宅も、住人以外の出入りを禁止し、スーパーでも体温測定をパスしないと入れません。飲食店もデリバリーのみです。買い物に出るとき以外は、感染リスクは高くありません」(太田さん)。
広州の新規感染者も徐々に減り、19日は0人だった。それゆえ太田さんは一層、中国の強権的措置が機能していると実感する。そんな中、太田さんも本社から帰国を命じられて2月中旬に日本に戻り、母国の当事者意識の低さに憂鬱になった。
太田さんは「1カ月前の武漢を見ているようです。日本人は『武漢、中国が大変だね』とまだ第三者目線ですが、マスクを中国に送ってる場合ではないですよ」と口にする。
日本は中国のようには、都市の封鎖も国民の生活の制限も難しいだろう。市中感染が拡大すると、日本全体がクルーズ船のようになりかねないと太田さんは心配する。
日本の本社と中国駐在員との意識の違い
貿易会社の駐在員として上海で働く鈴木さん(仮名)は、日本の本社との温度差にいら立ちを強めている。鈴木さんの会社では2月中旬に本社に新型肺炎対策本部が作られた。だが中国の駐在員と本社との間で対立が起きた。
中国の駐在員は2月16日までは在宅で勤務していたが、業務が本格再開する17日以降には出社するよう求められていた。ところが感染を恐れてできるだけ外出したくない社員は会社の方針に抵抗。それに対して本社は、「営業の社員は出社しないと仕事にならない。一部の社員の在宅勤務を認めると、不公平が生じる」と説明し、全員出社の姿勢を崩さなかった。
駐在員の中にはすでに一時帰国している人もいるが、日本勤務の社員と足並みをそろえるため、出社が求められている。鈴木さんは、「一時帰国中って、出社してもおしゃべりくらいしかとくにすることないんですよ。満員電車に長い時間乗って、会社でたくさんの人と接して、リスクしかない。本社はそれでも足並みをそろえることを優先します。感染者が出ないと変わらないですね」と呆れ顔だ。
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