映画「Red」元NHKの三島有紀子が描く、女の覚悟

「経験と想像力と選択の覚悟が求められる」

周囲に流され、”自分で選ばない”ことによって自分の役割を作ってきた塔子の殻を壊すのが、妻夫木聡演じる鞍田だ。「鞍田は孤独で崇高で、自分に対して純度の高い人という存在にしたかった。生命には限りがあると考えたとき、人は自分に対して純粋に生きているかという純度が問われていくと思います」。

そのイメージは、三島が20代後半で出会った、ジェフ・バックリィが歌う「ハレルヤ」という曲にあると三島は話す。「ハレルヤ」は三島監督たっての希望で、今作で塔子と鞍田の逃避行のテーマに採用された。

「あまりの純度の高さと、危ういのに非常に確信を持った声と、孤独なギターと。ジェフ・バックリィは若くして亡くなりましたが、鞍田と重なる部分もあります。ハレルヤとは神をたたえる言葉なのに、この曲は当時の私に『自分に純粋に生きられているか』と純度を問いかけてきた存在で、いまも曲を聴くたびに、もし自分が死を前にしたとき、愛する人は誰なのか、最後に作りたい映画は何かと、問いを突きつけられているようで胸が痛くなります。

鞍田はある種、社会的規範とか常識をどこかに置いてきて自分にただ純粋に生きている人。自分にとっての鞍田はハレルヤかな。何を愛するかは人それぞれですが、こうやって覚悟を持って生きている人が好きですし、私としてはいちばん共感している役ですね」

鞍田は塔子へ直接的に呼びかけるのではなく、遠回しに導く。わかりやすく扉を開けるというよりも、暗闇の中、月明かりで道だけを示し、進むのかどうか、選択を塔子に委ねる。「業の深い人です。塔子に人生を問う訳ですから。『きみの人生はそれでいいのか?』と。本質をよく見ている鞍田は、今のままではよくないことを知っている。問われた塔子は悩み覚醒して、新たに自分自身を自分の手でつかみ取って生きていくんです」。

「これを見てほしい」センセーショナルな性愛描写

センセーショナルな性愛描写で話題となった原作の映画化。鞍田と塔子の最後の夜のシーンには、女性監督である三島がこれまでの男性による映画とは異なるアプローチで彼らの性行為の一部始終を撮り切り、視覚的・聴覚的に逃げ場を作らず、観客に直視させようという意志すら感じられた。

「そのとおり、一部始終を見せたかったんです。お互いが存在を確かめ合う時間なのかなと思っています。だから性で喜びを感じるのは大事なこと。初めは声を出せない塔子が鞍田のいざないで声を出し、自分を解放していくわけですが、最後には観音様のような顔になるまでの表情の過程をすべて見せることで、非常に満たされたということを伝えたいという思いで撮っていました。

別のラブシーンでも存在することを感じ合います。だからよくある薄暗いシーンではなく、彼女の顔をしっかり見せるために、明るい部屋で電気も消さずにあの2人は最後の夜を過ごします。だって、最後になるかもしれないときに、私たちは電気を消すだろうかと。この瞬間を目に焼き付けるように細胞レベルで記憶にとどめておきたいと思うのではないか、と考えたんです。愛する人はこんな目、眉、鼻、口元、肩をしていて……と、その体感を観客の皆さんにも感じてほしい。息遣いも含め心音も聞こえるような距離で、感情に肉迫してつぶさに追いかけることを大事に、手持ちカメラでこれを見てくれ、これに寄り添ってくれと念じながら撮っていました」

次ページ映画の結末は、2020年的であると言えるかもしれない
ライフの人気記事
トピックボードAD
関連記事
  • 看取り士という仕事
  • コロナショックの大波紋
  • 非学歴エリートの熱血キャリア相談
  • 賃金・生涯給料ランキング
トレンドライブラリーAD
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
大学 シン・序列<br>コロナ後に変わる名門校の条件

コロナショックを受けて、大学をめぐる環境は急変。授業のオンライン化、学生の経済的困窮など、解決するべき課題は山積しています。大学はどのように変わるのか。50ページにわたる特集で最高学府の近未来を探りました。