2014年、直木賞作家・島本理生がセンセーショナルな描写で新境地をひらいた『Red』。発表と同時にその倫理を超えた描写、衝撃的な内容で賛否両論を呼び、累計20万部のベストセラーとなる。
その『Red』が映画化され、2月21日より全国公開される。主演は数々の作品で幅広い役柄を演じてきた女優・夏帆。本作では、かつて愛した男との再会で、心も体も解放していき、自由に美しくなっていく女性を繊細かつ大胆に演じる。
塔子がかつて愛した男・鞍田役には、現在の映画界において欠かせない存在の俳優・妻夫木聡。塔子に好意を寄せる小鷹役を演じるのは、昨年の第73回毎日映画コンクール男優主演賞に輝いた、いま最も旬な俳優のひとり、柄本佑。また、塔子の夫・真を演じるのは、昨年デビュー10周年を迎え、ますます勢いの止まらない間宮祥太朗だ。
メガホンを取るのが、『幼な子われらに生まれ』で家族の心の機微と真理を鋭く描き出し、第41回モントリオール世界映画祭コンペティション部門審査員特別大賞など、数々の賞を受賞した三島有紀子監督だ。本作『Red』では”男と女”に焦点を定め、1人の女が心と身体のつながりを経て覚醒し、生き延びていくさまを、肉迫した臨場感ある映像でつぶさに追いかけている。
塔子という女の覚醒
三島はこの映画に、原作とは異なるオリジナルの結末を用意した。2014年に発表された原作と比べてはるかに厳しいものである塔子の決断が描かれるのは、この映画が、ここ数年でまたいくつもの新たな感情を知った2020年の日本の女たちへ贈られたものだからかもしれない。
都会の大きな家に住み、夫とかわいい娘、そして夫の母と同居する専業主婦の塔子は、世間の基準ではおそらく「恵まれている」はずながら、その実、周囲の人間の顔色や言葉に左右され、さまざまな感情を体の中に抑え込んでいる。子どもの幼稚園への送迎や食事の用意など、家族の世話を日々繰り返し、夜帰宅するエリートの夫には一方的に「奉仕」させられるだけ。夫の添え物として出かけ、着るものや発言にまで夫に干渉され、それを拒否できない女性だ。
三島は「『Red』とは、この塔子が爆発して、生き延びることができた映画です」と説明する。落ち着いた低めの声が耳に優しい。
「塔子は周りの意見や空気を感じとって、世間がよいというものに合わせるという、自分の中に尺度を持てない女性。はっきりとどう生きたいのか自分の頭で考えてこなかった女性が、かつて愛した男である鞍田と再会し、覚醒する。
その塔子を演じるのに、夏帆さんは適役でした。彼女はまるでビー玉のようにきれいな球体の目をしていて、感情をなくして立っていると、その姿が人形のように見えるんです。自分の中に尺度を持たない塔子が鞍田と再会し、その目に生命がみなぎり、肌が紅潮する。夏帆さんはその落差を表現できる女優さんです」
もともと映像でものを覚えるタイプで、かなりの観察魔だという三島。役者に限らず、その人の髪型や身体の造形や服の色や話し方などの中から、人物について思いを巡らすのだと語る。
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