米破産申請でわかるマウントゴックスの内実 顧客から預かった現実通貨まで消失した一部始終

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不透明かつお粗末なネットワークだけに昨年春ごろから大きな問題が相次いだ。一つは米コインラブ社とのトラブルだ。12年11月、MTGOXは北米の顧客に広く対応するためコインラブと独占的ライセンス提携の合意書を交わした。コインラブの在米口座を頼ろうとしたわけだ。合意書によれば、初年度の収入目標は31万ドル、10年後には73万ドルとされた。それを両社で分け合おうというものだ。

まだ真相はやぶの中だが、提携関係は4カ月で破談となった。その一方、準備作業期間中にMTGOXの顧客に帰属すべき預り金1279万ドルがコインラブの口座に移動していた。提携破談に伴いMTGOXは返還を要求。が、13年4月、2回に分けて戻ってきたのは747万ドルだけで、今も532万ドルが返還されていない。逆にコインラブは同年5月、MTGOXに7500万ドルもの損害賠償を求めて裁判を提起、現在も係争中だ。

米当局から差し押さえ

さらに同じ頃、別の大きな問題が起きる。米国土安全保障省により資金500万ドルが差し押さえられたのである。

カルプレス氏はコインラブとの提携に先立つ11年5月、「MUTUM SIGILLUM」なる有限責任会社の名義で米ウェルズ・ファーゴに口座を開設していた。MUTUM社は08年5月にデラウェア州で設立。一応、IT関連事業を標榜する自社サイトが現在も閲覧可能だが、同州のデータベースによると、これまで納税実績はなく営業実態は不明だ。MUTUM社は「ドゥオーラ」というアイオワ州の送金業者に口座を開いた。11年12月、三井住友銀行開設のMTGOX名義口座と前述のMUTUM社名義口座との間で日米にまたがる資金移動が始まる。多くがドゥオーラ社に開設した口座との間も行き来した。

そうした資金移動が不審情報として米国土安全保障省の耳に入った。その後「CI-1」のコードネームで呼ばれることとなるメリーランド州在住の匿名情報提供者からだった。米国では送金サービスを行うには登録が必要。当局はMUTUM社の活動を無登録営業と見なし、ドゥオーラ社に開設した口座にあったMUTUM社名義の資金すべてを差し押さえたのである。

マネーロンダリング(資金洗浄)に厳しい米政府は少し前からビットコインへの監視を強めていた。13年3月、米財務省金融犯罪取り締まりネットワークは仮想通貨に関する規制の指針を公表。同年5月にはカリフォルニア州金融機関監督局が、カルプレス氏も理事を務めていた業界団体「ビットコイン財団」に対し、送金業の無登録営業に当たる可能性がある旨の警告書を送っている。差し押さえもそうした一連の動きの一環だ。

これらの問題で少なくともMTGOXは10億円超の資金を拘束されていたことになる。この先それらが戻ってくる保証はなく、バランスシートに計上されている前述の貸付金など22億円は相当程度が毀損している可能性が高い。

ニューヨーク在住の大口顧客が東京地裁に起こしている裁判の記録によれば、MTGOXは昨年7月の時点でわずか1万ドルの現金引き出しにも応じられない窮状にあった。その顧客はMTGOXの口座内にあった93万ドルもの現金を再びビットコインに交換して他の取引所に移管、昨年10月までに83万ドルを回収することに成功したのだという。

今回の破綻劇では時価115億円相当のビットコインがハッカーに盗まれたという技術的側面ばかりが注目されがちだ。が、経営的側面から見ても、あまりに幼稚でずさんだったと言わざるをえない。

撮影:尾形文繁 =週刊東洋経済2014年3月22日号〈3月17日発売〉 核心リポート05に加筆)

高橋 篤史 ジャーナリスト

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たかはし あつし / Atsushi Takahashi

1968年生まれ。日刊工業新聞社、東洋経済新報社を経て2009年からフリーランスのジャーナリスト。著書に、新潮ドキュメント賞候補となった『凋落 木村剛と大島健伸』(東洋経済新報社)や『創価学会秘史』(講談社)などがある。

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