パソコンやスマートフォンなどの情報通信技術(ICT)分野では、1990年代から輸送コストや製造コストを最適化させた巨大なサプライチェーンが中国に構築された。それに合わせ、部品メーカーも中国本土に工場や輸送網を整備した。
一時、世界のノートパソコン製造の9割を台湾企業が担い、中国にも多数の工場が建設された。アメリカ・アップル社のiPhoneを組立製造する鴻海精密工業(フォックスコン)が中心となり、中国に築き上げたサプライチェーンは「フォックスコンシティ」と称されたほどだ。
ところが、米中貿易戦争やハイテク摩擦の影響で、台湾企業の対中姿勢は大きく変化している。台湾の対外投資に占める対中投資の割合は、2010年の83.8%から2018年は37.3%へ半減。逆に拠点を台湾に戻す企業は増えており、台湾当局によれば、この「回帰投資」は2019年12月時点の累計で約2兆4000億円にのぼった。
東南アジアに拠点を移転するケースも
台湾企業が東南アジアなどにサプライチェーンを移転するケースも増えている。鴻海のほか、ペガトロンやウィストロン、コンパルなど主要なスマホやパソコンの製造受託企業が2018年以降の生産移転計画を表明している。日本の経産省にあたる台湾経済部工業局の楊志清副局長は「技術水準が低い工場は大陸から東南アジアに移転しているが、ハイテク分野については技術漏洩のリスクが低い台湾への引き揚げが増えている」と話す。
台湾の政府系シンクタンク・資訊工業策進会(資策会)傘下でIT産業関連の調査を担う産業情報研究所(MIC)によると、台湾企業が中国拠点から完全に撤退するケースは少数で、生産ラインの移設が主であると指摘する。それは「設備投資や従業員の訓練費がかかることを理由に、(アップルなどの)大手顧客が移転に反対している」(鴻海関係者)からだ。
それでも現地アナリストは「中国は生産拠点として今でも高く評価されているが、米中摩擦など以外に、台湾人として中国で活動する際に『人質』になる可能性が明確になった以上、中国への投資取り止めや生産移転がより強固なトレンドになっていく」と指摘する。
中国当局が台湾人にみせた対応がサプライチェーン大規模再編ののろしとなるのか。影響が懸念される日本の電子部品各社は、台湾と中国の微妙な関係変化から目が離せなくなりそうだ。
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