不動産業界は好調な賃貸にも陰り、投資回収促進でも財務基盤改善は限定的《スタンダード&プアーズの業界展望》
東京の優良立地・大型オフィスビルでは空室率の上昇に歯止めがかかってきたとみられるものの、賃料調整がその背景にあるため、当面は賃貸事業を営む不動産各社の利益には下方圧力が働くだろう。大型新規ビルが高い稼働率で稼働できればよいが、需給が弱含み、空室を埋めるために賃料の値下げで対応している現在の市場環境では、新規プロジェクトのリーシング状況は賃料水準とともに注視する必要がある。
ただし、悪化しているとはいえ、両社の空室率は各種調査機関による東京都心部の空室率約6~7%と比較するとまだ低い。また、全国的に賃料が下落しているが、三菱地所単体のビル事業の平均賃料は、新規ビル稼働や賃料改定の寄与もあり、10年3月期にかけてまだ上昇する見通しである。
両社では、1)旗艦アセットの新築・建て替えや資産の入れ替えなどを通じて賃貸資産の質を向上させてきた、2)賃貸資産ポートフォリオが分散しているうえ、都心の優良立地に競争力の高い新規ビルを多く有する、3)リーシング力が強く、組織改変などによりさらに強化もしている、4)テナントとの契約期間の長期化に取り組んでいる--ことなどから、今後1~2年の間に、両社の空室率が急激に上昇したり、賃料水準が下落する懸念は低い、とスタンダード&プアーズは考えている。
賃料交渉における保守的なスタンスの維持により、賃料市況の影響も相対的に受けにくいとみられる。このため、賃貸事業からのキャッシュフローが短期間で大幅に毀損される可能性は低い、とスタンダード&プアーズは考えている。
分譲事業が引き続き収益の押し下げ要因
マンション分譲の販売は、専業大手を含む各社が前期に評価損を計上し、販売価格を引き下げたことや、住宅ローン減税の減税枠拡大などが寄与して、回復の兆しがみえてきた。