不動産業界は好調な賃貸にも陰り、投資回収促進でも財務基盤改善は限定的《スタンダード&プアーズの業界展望》
しかし、スタンダード&プアーズは引き続きマンション分譲事業が各社の収益の重しになると考えている。三菱地所と三井不動産では、前期に続き10年3月期にも低価法による評価損を計上している。これらの物件は簿価を落とした価格で販売できても利益は出ないうえ、販売の成約ペースは依然として緩慢である。計上戸数計画を引き下げる会社もある。
11年3月期にかけても、2~3年前の原価率の高い仕入れ物件(土地の仕入れ値が高く建築費も高騰していた時期の物件)を販売するため、各社の分譲事業の利益率は低水準にとどまるだろう。三菱地所は、10年3月期も前年度に引き続き住宅事業が2期連続の営業赤字となる見通しで、11年3月期にかけても大幅な改善は見込めないとスタンダード&プアーズは予想している。
個人向けマンション分譲と並んで、両社の利益を押し上げてきたのが、投資家向けのオフィスや商業施設、賃貸マンションなどの分譲事業である。
同事業はJ−REITや不動産私募ファンドなどが主役の不動産投資市場の動向と密接にリンクしているため、不動産投資市場の低迷は、デベロッパーの物件売却による収益シナリオを狂わせる。この結果、不動産各社の収益は上がらないうえ、投資資金の回収が遅れ、有利子負債の高止まりにつながってきた。
しかし、大幅に落ち込んでいた不動産投資市場でも、少しずつ投資再開の動きが見られるようになってきている。09年9月期には東急不動産でSPCを通じた物件売却収入が増加したり、10年3月期には三井不動産が日本アコモデーションファンド投資法人(NAF)へ資産譲渡するほか、三菱地所も期初に見込んでいなかった物件売却を見込んでいる。しかし、三井不動産はNAFへの売却では売却損を計上する見込みで、さらに他の投資家向け物件の売却でも売却損を計上する見込みである。
地価下落が続くなかでは、他社でも、物件売却で売却益を確保できない可能性が出てくるだろう。ただ、投資家向け分譲事業の利益率は、今後1年程度は悪化、または低水準にとどまると考えている。