日本橋三越「テナント誘致」を積極化する狙い ビックカメラ開業、賃貸方式への転換が加速

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テナントの誘致を進めれば、安定収益源の確保にもつながる。賃貸方式のビジネスモデルは、自主運営売場で商品が売れたときよりも採算性が低くなるが、一方でテナントからの賃料収入が定期的に入ってくる。

百貨店業界では現在、自主編成売場よりも賃貸方式に軸足を置く企業が多い。大丸松坂屋百貨店を傘下に持つJ.フロントリテイリングは、東京・銀座の松坂屋銀座店の跡地に賃貸方式に特化した「GINZA SIX」を2017年に開業した。高島屋も日本橋高島屋に隣接する地に、食品などのテナントを集めた「日本橋店S.C」を2018年にオープンした。

賃貸方式にもリスクがある

自主運営売場にこだわってきた三越伊勢丹も、ここにきて不振の地方や郊外店を賃貸方式で立て直すことを検討し始めている。ただ、賃貸方式は、テナントとの契約が4~7年周期で更新されるのが一般的だ。テナントは賃料に見合う十分な収益を上げることができなければ撤退を検討するが、契約更新を待たずに違約金を支払ってでも店じまいするケースもある。

また、安売りのテナントを誘致することは、百貨店の高級感のあるイメージを損なうリスクもある。今でも自主編成売場を重視する老舗百貨店・松屋の中堅社員は、「日本橋三越本店がテナント誘致を積極化する姿勢には疑問を感じる。(ビックカメラの誘致は)百貨店のブランド価値を下げることになるのではないか」と話す。

ビックカメラ日本橋店のオープンに先立ち、会見した三越伊勢丹ホールディングスの杉江俊彦社長とビックカメラの宮嶋宏幸社長(記者撮影)

足元では三越伊勢丹に逆風が吹いている。暖冬影響や消費増税、さらに新型肺炎影響の「3重苦」が襲いかかり、今2020年3月期は売上高1兆1550億円(前期比3.5%減)、営業利益200億円(同31.6%減)と、当初見込んでいた増益計画を大幅に下方修正し、一転減益の見通しとなった。来2021年3月期も、現時点では外部環境が楽観視できる状態になく、連続減益になる懸念もある。

百貨店離れが深刻化する中、日本橋三越本店で見せる新機軸を再建のテコにすることができるのか。ビックカメラに続く新たなテナントの存在がカギを握っているが、道のりは平坦ではない。

梅咲 恵司 東洋経済 記者

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うめさき けいじ / Keiji Umesaki

ゼネコン・建設業界を担当。過去に小売り、不動産、精密業界などを担当。『週刊東洋経済』臨時増刊号「名古屋臨増2017年版」編集長。著書に『百貨店・デパート興亡史』(イースト・プレス)。

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