「論語」の教えがグサグサと胸に刺さりまくる 2500年読み継がれる最強ビジネス書の魅力

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子曰く、民の仁におけるや、水火(すいか)よりも甚(はなはだ)し。水火は吾蹈(ふ)んで死する者を見る。未だ仁を蹈んで死する者を見ざるなり。

「生きてゆくために、水や火は欠かすことができません。けれども、実は『仁』も同じように欠いてはならないものなのです。そして、水や火はときに危険なものになって、溺(おぼ)れて死ぬことがあり、焼かれて死ぬことがあります。『仁』は違います。どれほど多く与えられても、『仁』のせいで死んだ人間の例はありません」

子曰く、仁に当りては師に譲らず。

「『仁』を実践するとき、わたしに遠慮することはありません。これが『仁』だ、このような思いやりが必要なんだと思ったら、すぐに実行してください」

信念を守るのは大切だが柔軟性も必要だ

子曰く、君子は貞(てい)にして諒(りょう)ならず。

「信念を守ることは大切です。けれども、一度決めたことを変えられないような柔軟性を欠いた人間にはならないでください。もしかしたらそれは間違っているのかもしれないのですから。筋道を通すことと頭が固いことはまったく別なのです」

子曰く、君に事(つか)うるには、其の事を敬(つつ)しみて、其の食を後にす。

「君主に仕えたら、まず、その仕事をきちんとすることを第1に考えてください。いくら大切だからといって、給料のことばかり考えないようにね」

子曰く、教えありて類なし。

「いいですか、人間にとっていちばん大切なのは、学ぶことです。身分や人種で、人間の質が決まるわけではありません。いくら階級社会だといってもね。後に、ニッポンの福沢諭吉くんが『天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず』と解してくれたのは、このことなんですよ」

子曰く、道、同じからざれば、相い為に謀らず。

「目指す道が違う者の間では、残念なことに、有益な議論はできません」

子曰く、辞は達するのみ。

「ことばや文章は、相手にこちらのメッセージが伝われば、それで十分です。美しい文章、人を驚かせる文章を書く必要などありません」

師冕(しべん)、見(まみ)ゆ。階に及ぶ。子曰く、階なり。席に及ぶ。子曰く、席なり。皆な坐(ざ)す。子、これに告げて曰く、某(それがし)は斯(ここ)にあり、某は斯にあり、と。師冕出づ。子張問うて曰く、師と言うの道か。子曰く、然り。固より師を相(たす)くるの道なり。
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目が不自由なミュージシャンで冕という人がセンセイの家を訪ねてきたことがある。センセイは、自ら冕さんをお迎えになり、手を引いて案内した。そして、階段の前に来ると、「そこは階段です」、座席の前に来ると、「そこに座席があります」と、丁寧に説明した。冕さんが席につくと、今度は、その席にいた人々を1人ひとり、「あなたの横にいるのが××さんです」「その隣にいるのが○○さんです」と紹介していった。冕さんが退席すると、子張が尋ねた。

「感心しました。目の不自由な人には、あんなふうに対応しなければいけないのですね」

するとセンセイはこうお答えになった。

「子張、わたしは『対応』したのではないよ。目の不自由な人だから、ねぎらってさしあげただけです」

高橋 源一郎 作家

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たかはし げんいちろう / Genichiro Takahashi

1951年広島県生まれ。作家、明治学院大学名誉教授。横浜国立大学経済学部中退。81年『さようなら、ギャングたち』で群像新人長編小説賞優秀作となる。88年『優雅で感傷的な日本野球』で三島由紀夫賞、2002年『日本文学盛衰史』で伊藤整文学賞、12年『さよならクリストファー・ロビン』谷崎潤一郎賞を受賞。著書に『ぼくらの民主主義なんだぜ』『ゆっくりおやすみ、樹の下で』『たのしい知識 ぼくらの天皇(憲法)・汝の隣人・コロナの時代』『ぼくらの戦争なんだぜ』ほか多数。

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