暗記だけで数学を乗り切った学生の悲しい末路 暗記数学こそ読解力低下の遠因ではないか

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次に暗記数学の実態として、ここ数年とくに気になっているいくつかの例を紹介しよう。

①「速さ・時間・距離」の関係を理解せずに「は・じ・き」の図式を覚えて問題を解くので、それを間違えて思い出すと、まったく異なる答えを出してしまう。

②「比べられる量・もとにする量・割合」の関係を理解せずに「く・も・わ」の図式を覚えて問題を解くので、「~に対する…の割合」を「…の~に対する割合」というように問題の表現を変えられると間違えやすい。

③立方体の展開図はいくつあるのか、というような試行錯誤してものの個数を求める経験がなくなり、単に答えだけを覚えさせるような教育が蔓延している(展開図の場合の答えは11通り)。その結果、ものの個数を素朴に数える問題を苦手とする生徒や学生が多くいる。

④コンパスと定規を使って図を描く作図に関して、図を描くことは学ばせても、その手順としての作図文の指導を省略する学校が大半になったために、きちんとした論述文を書くことができない中学生が相当増えてきている。

⑤高校の授業でものの個数を指導するとき、最初から順列や組み合わせの個数を数えるときに使う順列記号Pや組み合わせ記号Cに関する指導から入る。さらに、PやCに関する公式を覚えさせるだけの場合も少なくないようである。その結果、「PやCに関する公式を使わないといけない」という強迫観念があるかのような奇妙な答案を書く生徒が多くいる。

⑥高校生が3次関数の極大値や極小値を与えるxの求め方として、多項式の微分を形式的に覚え、その結果の式が0になるxを求めればよいとだけ暗記している。そこで、極値のない3次関数に対してもとんちんかんな“極値”を出してしまう。

なぜ数える問題が苦手なのか

①と②に関しては、2019年4月25日『大学生が「%」を分からない日本の絶望的な現実』と6月25日『数学の学びにおじゃま虫となる「3つの迷信」』の記事に詳しく述べたので、本稿では③以降について述べることにしたい。さらに⑥については、内容が「微分」だけにここでは省略したい。そこで、③~⑤について以下、先々のことと関連させて詳しく述べよう。

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