新型肺炎で「反中感情」が世界に広がる根本理由 一部メディアの行きすぎた報道への懸念も

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イタリアの首相は1月31日、同国と中国間のすべての航空便の運航を停止すると発表。マレーシア、フィリピン、ロシア、ベトナムなどは、武漢が位置する湖北省または中国本土全域の出身者に対し、一部のビザの発給を一時的に停止している。

無理からぬ恐怖と明白な差別の境界を見極めるのは必ずしも簡単ではない。しかし、新型ウイルスの保護対策の中には、人種的または民族的な差別に事実上なっているものがある。

一線を超えたメディア

ベトナムのホイアン中心部にある観光客に人気のバインミーレストラン「Bread Box」は、店先に「中国人には食事を提供できません」と書いた間に合わせの看板を掲げた。ホイアン北方にあるダナン・リバーサイド・ホテルは1月25日、新型ウイルスの流行を理由に中国人客の受け入れを見合わせると発表した。

香港の小規模レストランチェーン「光榮飲食」は1月29日、英語または地元の言語である広東語(中国本土で話されている標準語とは異なる)を話す客のみにサービスを提供するとフェイスブックに投稿した。同チェーンは、中国政府に反発して広がった香港の民主運動を支援してきた。

公衆衛生の専門家は、こうした動きの一部は理解できると話す。「治療法がわかっていない場合はとくに、潜在的な病気の原因から自分を遠ざけようとすることは、ある意味で自然な反応だ」とスタンフォード大学アジア太平洋研究センターでアジア保健政策プログラムのディレクターを務めるカレン・エグルストンは指摘する。

しかし、マスメディアもソーシャルメディアも明らかに一線を超えている。ルパート・マードックが所有する豪紙ヘラルドサンは、「パンデモニウム(大混乱)」という単語をパンダと組み合わせ、「中国ウイルスでパンダ−モニウム」という見出しを赤いマスクの画像の上に掲載した。これに対し、「容認できない人種差別」だとしてオーストラリア在住の中国人4万6000人以上が嘆願書に署名した。

フランス北部の地方紙クーリエ・ピカールは「黄色警報」という見出しを掲載して怒りを招き、後に謝罪した。

中国人観光客らの行動に以前から不安が広がっていた日本では、ツイッターで彼らを「汚い」「無神経」と批判したり、「バイオテロリスト」と呼んだりするコメントが投稿された。

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