新型肺炎で「反中感情」が世界に広がる根本理由 一部メディアの行きすぎた報道への懸念も
うその情報も増えている。韓国では、中国の生物化学兵器施設からコロナウイルスが漏れたと主張する動画がYouTubeに投稿され、広く視聴されている。他国でも同様の説が信じられている。
オーストラリアでは、フォーチュンクッキーやコメ、中国版レッドブルなどを取り扱っているシドニーの複数の店が汚染されているという誤った情報がインスタグラムで出回った。
よみがえるSARSの苦い記憶
2003年に重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行した際には、中国人だけでなくアジア人全般がこうしたゼノフォビア的な反応にさらされた。しかし、現在は当時よりもはるかに多くの中国人が国外に渡航している。中国文化・観光部によると、2018年に海外に渡航した中国人旅行者は約1億5000万人で、前年から14%以上増加した。
上智大学教授で政治学者の中野晃一氏は、中国が新型ウイルスの拡散防止を目的に数千万人を封鎖状態に置いていることが、他国政府の過剰反応を促している可能性があると指摘する。
パニックを鎮めようとしている政府もある。2003年のSARSの感染拡大で44人の死者が出たトロントでは、政治家や教育委員会、コミュニティグループらが、当時湧き起こった人種差別を繰り返さないよう呼びかけた。
アジア系が多く居住する同市ヨーク地区の教育委員会は1月27日、「新型ウイルスは中国のある省から始まっているが、中国のウイルスとはみなされないことに注意しなければならない」とする声明を発表した。「このようなときに、私たちはカナダ人として団結し、ゼノフォビアの兆しを回避しなければならない。今回のケースでは東アジアの中国人コミュニティが犠牲になりかねない」。
インドネシアは武漢からの航空便の運航を停止しているが、西スマトラ州のイルワン・プライトノ知事は、すべての中国人観光客の立ち入り禁止を求める市民グループの嘆願を却下。1月26日に個人的に空港を訪れ、中国南西部の昆明からの観光客174人を出迎えた。
中国人観光客でにぎわう東京・銀座の商業地区でファッションブティックを経営している女性は、日本政府がマスクや医療用品を送るなど、中国をもっと支援してほしいと話す。
「日本と中国は批判し合うこともあるかもしれないが、思いやりは分け合うものだ」と彼女は言う。「中国で起きている恐怖をなくすために私たちがもっと貢献できればと思う」。
(執筆:Motoko Rich、翻訳:中丸碧)
(C) 2020 The New York Times News Services
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