年間15%の人件費が「会議」に使われている衝撃 不毛な会議は「社内の民主化」の裏返しだ

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ゼロックス社がミーティングに関するコストを算出した調査によると、年間で「1億40万ドル」、人件費にして「15%」がミーティングに費やされているとのことでした。しかし、これらのコストはあくまで過小評価した数字だという点は見落とせません。これらの数字は単純な年収だけをベースにしており、社員それぞれにかかる福利厚生費などは含まれていません。また、ミーティングに使われる場所、設備、出席者の移動にかかる費用なども勘案されていません。

そして、おそらく最も重要なのは、非生産的なミーティングを行うと、各種の間接的なコストが発生するという点です。まずは「機会損失」というコスト。ミーティングに使った時間を、もっとほかの生産的な作業に当てられた可能性は排除しきれません。加えて、「心理的なコスト」。ある研究によると、ミーティングは出席者のやる気を著しく減退させ、不満が募っていくことを示す確かな傾向があるとのことです。

そして最後に、「ミーティング回復症候群」とも呼ぶべき現象について。これは、悪いミーティングに出席すると、心理的なダメージから回復するまでにある一定の時間を要するという現象です。回復のプロセスにある間は、本人だけでなく、周囲の人も愚痴を聞かされたり、八つ当たりの対象にされたりして、ネガティブな影響を受けかねません。

このように考えていくと、ミーティング関連費用は組織内に存在する巨大な「隠れた費目」ということが言えそうです。

会議をなくすと「もっと厄介な問題」も

では、ミーティングは少なければ少ないほどいいのでしょうか? 極端な話、不要なのでしょうか? わざわざ集まる必要がないと断言できるのならミーティングを減らす効果はあると思いますが、ミーティングをなくしても問題解決にはなりません。ミーティングは少なすぎても問題で、「大切な情報が伝わらない」「チームや組織への帰属意識が希薄になる」「周囲のサポートが感じられない」といった問題につながりかねないのです。

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また、人間は社会的な生き物であり、本能的に孤独を嫌う点も忘れるわけにはいきません。例えば、私は以前に、「理想的な仕事の一日」について匿名で答えてもらう調査を行ったことがあります。その結果を見ると、たいていの人の答えに「ミーティング」が含まれていました。「ミーティングのない1日」はむしろ望まれていないのです。

また、「自分だけがミーティングに呼ばれない」というのは非常につらい状況で、「のけ者にされている」「能力がないと思われている」といった不安が当人に押し寄せます。私たちはミーティングに呼ばれると、社内での価値が認められていると考えて安心する傾向があります。口では「ミーティングが多い」と文句を言っていても、内心では呼ばれたことを喜んでいるのです。

何かに招待されるということは、その集団に所属することを意味します。組織内で働く人間心理を踏まえても、会議は単純に減らせばいいわけではなく、「どの会議をなくして残すべき会議はどれか」を取捨選択する目が求められるのです。

スティーヴン・G・ロゲルバーグ ノースカロライナ大学シャーロット校教授

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Steven G. Rogelberg

国の内外、学問分野を超えた卓越した貢献が認められ、ノースカロライナ大学シャーロット校で栄誉教授の称号を得る。これまでの出版物の数は100以上にのぼり、現在は組織心理学同盟の事務局長を務める。また、長年にわたるミーティング研究の功績を認められ、フンボルト賞を授与された。大学での教育と研究に加え、大小さまざまな企業でコンサルティングや講演を定期的に行っている。これまで一緒に仕事をした企業は、IBM、TIAA、プロクター・アンド・ギャンブル、VFコーポレーション、ファミリー・ダラー、シーメンスなど。NPOの運営改善を支援する団体を設立し、現在もトップを務める。この団体が支援するNPOは500以上になる。

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