見えないのに価値を生む「無形資産」とは何か ビル・ゲイツ注目「世界経済最大のトレンド」
ほとんどの先進国では、これは実に白黒はっきりした話だ。実際、工場など所有する有形資産の便益を自分が獲得できるようにするというのは、あまりに簡単なので、質問するほうがばかばかしく思える。
だが設計となると、話はまったく違ってくる。まねされないよう秘密にしておくことはできるが、競合他社が製品のフルーゲルバインダーを買って、それをリバースエンジニアリングするかもしれない。まねをされないように特許を取れるかもしれないが、競合他社は「迂回発明」をして、製品の各種側面をちょっと変えて特許が適用できないようにしてしまえる。
特許がしっかりしていても、特許侵害で賠償を得るのは、警察に工場侵入者を引っ捕らえてもらうよりもはるかにややこしい。何カ月、何年にもわたる訴訟の揚げ句、勝てるかどうかもわからない。あのライト兄弟は、世界初の飛行の後で、もっと優れた飛行機の開発に時間を費やすどころか、特許を侵害していると思った競合開発者と戦うのにほとんどの時間をかけていた。私的な投資のはずだったものから他人が便益を得る傾向――経済学者たちがスピルオーバーと呼ぶもの――は多くの無形投資の特徴だ。
無形資産はまたスケーラブル(拡張可能)であることが多い。コーラを考えよう。ジョージア州アトランタにあるコカ・コーラ社は、コーラ1リットルを製造するときに起こるさまざまな出来事との中で、ほんの一部しか担当していない。その最も価値ある資産は無形だ。
ブランド、ライセンス合意、コカ・コーラをコカ・コーラらしい味にするシロップを製造するためのレシピ。コーラ製造販売事業のその他ほとんどの部分は、コカ・コーラ社とは無関係のボトリング会社が行っており、そのボトリング会社のそれぞれは、世界のある地域でコーラを生産する合意を結んでいる。こうしたボトラーたちは通常、自前のボトリング会社、営業部隊、車両群を持っている。
アトランタのコカ・コーラ社が持つ無形資産は全世界にスケーリングできる。コカ・コーラの製法とブランドは、コーラが1日10億売れようと20億売れようとまったく同じ働きを持つ(ちなみに実際の売上は現在17億ほどだ)。
ボトリング会社の有形資産は、ずっとスケーリングしにくい。オーストラリア人たちが急にコカ・コーラをたくさん飲むようになったら、コカ・コーラ・アマティル社(地元のボトリング会社)はおそらくその配送トラック増大、生産ライン拡大、やがては新工場に投資しなくてはならないだろう。
最後に、無形投資はシナジーを持つ傾向にある(経済学者なら相補物と呼ぶものだ)。組み合わせにもよるが、あわせたほうが価値が高まるMP3プロトコルは、ミニハードディスクと、アップル社によるレコードレーベルとの契約やデザイン能力とが組み合わさってiPodを生み出した。これは極めて価値の高いイノベーションだ。
こうしたシナジーはしばしば予想がつかない。電子レンジは、軍事関連企業(レーダー設備からのマイクロ波が食品を温めるのに使えることを偶然発見)と家電メーカー(家電機器の設計能力を活用)の提携で生まれた。有形資産にもシナジーはある─―例えばトラックと積み込み場、あるいはサーバーとルーターなど─―が、通常は無形資産ほど革新的で予想外の規模にはならない。
こうした異様な経済特性から見て、無形資産の台頭は投資の性質におけるちょっとした変化ではすまない。無形資産が平均では有形投資とは違う振る舞いをするので、無形資産が支配的な経済もまた違う振る舞いをすると思ってよさそうだ。
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