見えないのに価値を生む「無形資産」とは何か ビル・ゲイツ注目「世界経済最大のトレンド」
だがそこで経済アジェンダを一変させる出来事が生じた。2008年の世界金融危機だ。経済学者と経済政策担当者たちは、当然ながら新しい経済と称するものを理解するよりも、経済全体が荒廃へと崩壊するのを防ぐほうに関心があった。
危機の最も危険な部分が回避されると、経済論争を支配するようになったのは、一連の新しく、いささか陰気な問題だった。これほどとんでもない破綻ぶりを見せた金融システムをどう治すか、富と所得の格差が急拡大したという認識、そして生産性上昇の長期的な停滞にどう対応するか、という問題だ。
ニューエコノミーの発想がまだ議論されたとしても、それは悲観的でディストピア的とすらいえる形での言及となった。つまり、技術進歩は回復不能なまでに停滞し、経済的な希望を破壊してしまったのだろうか? 技術は悪となり、みんなの仕事を奪うロボットを作り出すだろうか、あるいは悪性で強力な人工知能を登場させるだろうか?
だがこうした陰気な課題がマスコミの論説欄やブログにおける経済学論争の主題となっている間にも、資本の新形態を計測するプロジェクトは静かに進んでいた。アンケートや分析による無形投資の時系列データが生み出された。
まずはアメリカについて、それからイギリス、さらに他の先進国についてもそれが進んだ。財務省や国際組織はそうした研究を支援し続け各国の統計機関もまたある種の無形投資、とくに研究開発を投資調査に含めるようになった。
過去の時系列データも構築され、無形投資がこれまでどう変動してきたかが見えてきた。そして、無形投資は、ほとんどあらゆる先進国で、ますます重要性を増してきた。実際、一部の国ではすでに有形投資を上回るようになっている。
無形投資は何が違うのか
さて、経済的な観点からすると、企業の投資対象の種類が変わるのは、それ自体としておかしなことではないし、とくに興味深いわけでもない。いやむしろ、これ以上普通のことはないくらいだ。経済の資本ストックは絶えず変わり続けている。
運河にかわって鉄道が出てくるし、馬車のかわりに自動車が出てきて、タイプライターのかわりにコンピューター、そしてもっと細かい水準でも、企業は投資の構成をいつも見直している。
私たちの中心的な主張は、無形投資には何か根本的に違うものがあるということだ。そして無形投資への着実な移行を理解すると、今日私たちが直面している重要課題のいくつかが理解しやすくなるということだ。イノベーションと成長、格差、経営の役割、金融と政策改革などについて、これがいえる。
無形資産には2つ大きな違いがあるということをこれから示そう。まず、ほとんどの計測手法がそれを無視している。これにはもっともな理由もあるが、無形投資が重要になるにつれて、いまや私たちは資本をすべて計測せずに資本主義を計測しようとしていることになる。第2に、無形資産の基本的な経済特性により、無形主体の経済は有形主体の経済とは違う振る舞いを示す。