見えないのに価値を生む「無形資産」とは何か ビル・ゲイツ注目「世界経済最大のトレンド」

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2000年のドットコムバブルの崩壊で、ニューエコノミーに関する荒唐無稽な主張は抑え込まれたが、経済学者たちの間では、ずばり何が変わっているのか研究は続いていた。2002年に、所得と富に関する研究会議の会合で経済学者たちが集められたのは、こういう文脈でのことだった。彼らは、「ニューエコノミー」と呼ばれるもので人々が行っている種類の投資をずばり計測するにはどうすべきか考えるために呼ばれたのだ。

この会議以降、アメリカ連邦準備制度理事会のキャロル・コラードとダン・シチェル、メリーランド大学のチャールズ・ハルテンは、ニューエコノミーの各種投資について考える枠組みを開発した。

この種の投資がどういうものか考えるために、その会合の時点で世界で最も時価総額が高かった企業を取り上げてみよう。マイクロソフト社だ。マイクロソフト社の2006年における市場価値は2500億ドルほどだった。

マイクロソフト社の資産を計上するバランスシートを見たら、総資産は700億ドルほどで、うち600億ドルは現預金や金融資産だ。工場や設備といった伝統的な資産はたった30億ドル、マイクロソフト社の資産の4%という微々たるもので、時価総額の1%にすぎない。つまり伝統的な資産会計によると、マイクロソフト社は現代の奇跡だ。これは資本なき資本主義なのだ。

この会議からほどなくして、チャールズ・ハルテンはマイクロソフト社の帳簿を精査して、なぜこんなに時価総額が高いのかを説明しようとした。彼はいくつかの無形資産、「通常は具体的な製品やプロセスの開発に伴うものや、組織能力への投資、企業がある市場で競争できるような立ち位置を作り出すような製品プラットフォームの構築または強化のための投資」となる資産を同定した。

マイクロソフト社が研究開発や製品デザインへの投資で生み出したアイデア、ブランド価値、サプライチェーンや社内構造、研修で構築した人的資本などがその例だ。

こうした無形資産は、どれもマイクロソフト社のオフィスビルやサーバーのような物理的実体を持たないが、どれも投資の特徴を持つ。同社はこうしたものに対して事前に時間とお金を費やさねばならず、そしてそれはマイクロソフト社が恩恵を受けるような価値を、長期にわたって提供した。

でも、それらは普通は企業バランスシートには現れず、無理もないことだが、国民経済計算での国のバランスシートにも登場しない。コラード、ハルテン、シチェルらの研究成果は、アンケート、既存の時系列データ、さまざまな情報源や手法を用いたデータからの推計などを使い、無形投資を推計する手法の開発に大きく貢献したのだった。

未来への道中で起きた奇妙なできごと

かくして無形研究プログラムが生まれた。2005年のコロラドで、ハルテンとシチェルはアメリカ企業が無形資産にどれだけ投資しているかについて、最初の推計を公表した。2006年にハルテンはイギリスを訪れ、イギリス財務省でその研究についてセミナーを開いた。それを受けて財務省は即座に、この研究をイギリスに拡大するためのチームを組成した。

同じ作業が日本でも始まった。OECD(経済協力開発機構)のような組織は、かなり早い時期から無形資産に取り組み、政策や政治の部門で無形投資の考え方を促進し、その発想は台頭しつつあった経済ブログ界隈の評論家たちの間で、多少の注目を集めた。「無形」への言及は、無味乾燥な学術誌においてすら、着実に流行するようになった。

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