見えないのに価値を生む「無形資産」とは何か ビル・ゲイツ注目「世界経済最大のトレンド」
伝統的な会計慣行は、無形投資を見るときに、それが長期にわたる資本資産を作り出すものとは考えない。そしてこれは確かに一理ある。マイクロソフト社が机やオフィスビルに投資すれば、それは目に見えるし、中古オフィス設備やオフィス床の賃貸市場を見れば、その投資の日々の価値はおおむねわかる。
だがもっとよいソフト開発への投資やユーザーインターフェース改善への投資の価値を直接的に見ることができる市場はない。だからこの投資に関わる「資産」を計測するのは、実に難しい作業だ。慎重さで知られる会計士は、よほど限られた状況でもない限り(普通はソフトがうまく開発され、販売され、目に見える市場価格ができた場合だけ)、そんなことはしたがらない。
こうした保守的なアプローチは、この種の財への投資がほとんどない経済なら大いに結構だ。しかしそうした投資が有形投資を上回るようになると、経済のますます大きな部分が白紙のまま残されてしまう。
無形資産の性質:なぜ経済が大きく変わりつつあるのか
もし計測ミスだけが問題なら、無形投資へのシフトは比較的どうでもいい問題かもしれない。例えるなら、経済の中で新しいトラックのほとんどは数えているけれど、いくつか数え残しがある、というようなものだ。統計局にとっては見すごせない問題だが、それだけでしかない。
だが無形資産の台頭には、もっと重要な影響があるというのが私たちの議論だ。無形資産は全体として、伝統的に支配的だった有形投資とは、全体としてかなり違う経済特性を持っているのだ。
まず、無形投資はサンクコスト(埋没費用)を表すことが多い。企業が工作機械やオフィスビルといった有形資産を買ったら、必要に応じてそれらを売却できるのが普通だ。多くの有形投資は、かなり大規模でかなり特殊なものですら転売できる。
オーストラリアの鉱山で使われる巨大なトラクターがお気に召したら、マシーナリーゾーンというオンラインオークションサイトで中古品を買える。ワールドオイルズでは、あまり使い込まれていない石油掘削リグが販売されている。そしてUVIサブファインドという企業は、中古の潜水艦を取り扱っている。
ところが無形資産は転売しにくいし、それを作る企業に固有のものである場合が多い。トヨタ自動車はカンバン生産システムに何百万ドルも投資するが、その投資を工場から引き剥がして転売するのは不可能だ。そして一部の研究開発は特許となって転売できることもあるが、ずっと多くの部分はその投資を行った企業固有のニーズにあわせたもので、知的財産市場は極めて限られたものとなってしまう。
無形投資の第2の特徴は、それがスピルオーバー(波及効果)を作り出すということだ。フルーゲルバインダーの製造業を営んでいるとしよう。工場という形の有形資産を持ち、フルーゲルバインダーのすばらしい新設計という形の無形資産を持っている。
その会社が工場からの便益を最大限に獲得できるようにするのは、ばかみたいに簡単だ。工場のドアに鍵をかければいい。もし無料で工場を使わせろと言われたら、丁寧に断ればいい。侵入されたら、警察を呼んで逮捕してもらう。