いつも戦場。思い続ける力~再建・大不況・電気自動車--益子修・三菱自動車工業社長

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 就任4カ月の決断 電気自動車の未来

益子は金子の販社に足を運んだ。涙、涙の営業日誌に目を留め、持って帰ったまま、いまだに返していない。益子は思っていた。

「社員が立ち上がった。自分の会社は自分が変えねば、と。この会社は立ち直るかもしれない」

益子もセールスマンになった。三菱商事の白地に電話がかかってくる。「今度、あいつが海外から帰ってくるだろう。オレが言うと生々しいから」。代わりに車を薦めてくれないか。購入すると、益子が直接、本人に電話を入れる。「ありがとう」。

社長に就任したとき、社員が「ゴーンさんになれるか」と聞いた。「なれません」。取引先を半分に集約し、購入コストを2割下げるというやり方は、益子の流儀ではない。郵船社長の工藤泰三が言う。「益子さんは、お互い知恵を出し合い、長期的にコストを下げていきましょう、と。そう言われると、意気に感じる」。

風も吹いた。狙いを定めた新興国市場、中でも、石油景気に沸くロシア・ウクライナでアウトランダーが快走した。07年度の営業利益は1085億円。再建計画の目標値740億円を悠々、上回った。

「さぁ、少しはボーナスも弾もうか」。途端、08年9月のリーマンショックである。09年度第1四半期の売り上げは実に6割減の急降下。296億円の営業赤字に逆戻りだ。これでもし、電気自動車「アイ・ミーブ」がなかったら、三菱自動車は凋(しぼ)んでいたかもしれない。

三菱自動車は今年7月、世界で初めて量産型の電気自動車=EVを市場に送り出した。益子が本格開発にゴーサインを出したのは、05年5月、社長就任の4カ月後だ。ハイブリッドも考えたが、はるか先を行くトヨタには到底、追いつけない。

だが、エンジン(内燃機関)と電気モーターを併用するハイブリッドと違い、EVは自動車産業の命、エンジンを一切使わない。本当にやれるのか。やっていいのか。「でっかいエンジン工場を三つも持っている。ビジネスモデルを自分たちで壊すような“楽しみ”がある。チャレンジって、そういうものだよね」。

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