いつも戦場。思い続ける力~再建・大不況・電気自動車--益子修・三菱自動車工業社長

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 膠着を破ったのが西岡だ。自動車を重工の持ち分法適用会社にする、つまり、重工が後見人になることを表明した。ならば、銀行は金融の面倒を見る。では、商事には社長を出してもらおう--。商事で最も自動車に精通しているのは、益子である。

「見る人が見た、ということだろう」と三木。西岡が益子の社長指名を告げると、商事会長の佐々木幹夫は「彼はいいぞ」と応じたという。

その日、自宅に夜回りの記者が待っていた。「益子さんが社長じゃないでしょうね」。「バカ言え。新社長がふらふら家に帰ってくるかよ」。発表後、当の記者に電話を入れるのが、益子である。「ごめん。自分でオレだとは言えないじゃない」。

「会社は社員のもの」女性が立ち上がった

益子がまだ社長に就任する前のこと。部品大手、矢崎総業社長の矢崎信二が同業10社の社長とともに三菱自動車に呼ばれた。立派な受付、荘重な役員会議室。テーブルの向こうに会長・社長以下がずらり並んでいる。何も変わっちゃいない--。

発言を促したのは益子だったと記憶している。矢崎は言った。「こんなところで要望を聞こうというその姿勢が間違っているんじゃないでしょうか」。現場目線を共有せず、問題解決できるわけがないでしょう。

益子は、伝統の「上から目線」に決別した。閉鎖を決めた岡崎工場に自ら赴き、持論を語った。会社は誰のものか。株主も大切だが、社員と家族を犠牲にして、株主に還元する(利益を上げる)ことなどできない。

「だから、社員を守れないのは、経営ではない。が、岡崎を閉めないと、会社がもたない。自分の子供を入れたい、と思うようになって初めて、いい会社。この会社をそういう会社にしなければいけない」。罵声を覚悟していた益子に、「10年、社長をやってくれ」と声が飛んだ。

リコール隠しの元役員たちに対する損害賠償請求。三菱は先輩を大事にする。「そこまでやるか」という意見もグループから出たが、益子は社員に聞き、役員会でも一人ひとりに聞いた。高い職位の幹部が「話がある」とやってきた。自分の最後のお願いだ。やってくれ。そうしなければ、会社は立ち直らない。けじめが必要なんだ--。「この人が言う。そうか、社員の総意なのか」。

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