柳家花緑、偉大な祖父「小さん」とは違う新境地 「僕は今を生きる」天才と呼ばれた噺家の半生

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花緑にはいくつかの著書があるが『落語家はなぜ噺を忘れないのか』(角川SSC新書)は、落語ファン必読だ。落語家にとって「噺を覚える」「修行する」とはどういうことなのか、を極めて具体的に、わかりやすく説明している。

青年のような明るい笑顔を見せた柳家花緑(編集部撮影)

この本の中で花緑は、祖父柳家小さんの代表作の1つである「笠碁」を学ぶにあたって徹底的に研究し尽くしたと書いている。小さんの「笠碁」の放送音源をすべて何度も聞くとともに、他の演者の数多くの「笠碁」も聞いた。そのうえで、自分の「笠碁」の台本を書いているのだ。

筆者は大学4年の夏に、就職活動もせずに信州の保養所で松鶴や小さん、米朝、志ん朝などの落語を聞いて書き起こしたことがある。耳から聞くだけでなく書き起こすことで噺の組み立てや、演者の意図、思惑が手にとるように理解できた。松鶴などは同じ噺でも、持ち時間によって登場人物や道具立て、話す内容をすべて変えていた。その緻密な計算に驚いたものだ。ただ書き起こしの作業は、難行苦行に近い。二度とやりたくないと思った。

50歳を迎える花緑から失われない親しみやすさ

花緑は多くの噺を聞いて、それをもとに自分の噺の台本を書き起こしているのだ。驚くことに、大きな会で高座に噺をかけるたびに台本を書いているのだという。

「20代の頃は独演会の前、2時間しか寝ていないんですよ。夜の7時の会に、朝の7時までやっと稽古して。台本が書き上がって、あと12時間のうちに覚えるなんてそんな無謀なことをやっていました」

花緑は、ディスレクシアという障害から逃げていない。そんな障害がありながら、最も苦手な「文字」と今も格闘しているのだ。

「だから、人の2倍脳が疲れるんですよ。若いときは平気だったけど、40代に何度か倒れています。3年に1回、2年に1回、1年に2回、1年で3回とか倒れるようになりました。過労ですから、救急車で運ばれて点滴2袋入れて、酸素を吸って、半日休まないと治らないっていう」

五代目柳家小さんの孫、柳家花緑も来年には50歳になる。しかし花緑は「青年」の明るさ、親しみやすさを失っていない。

「花緑のファンかどうかではなくて、だれであっても“やっぱり花緑を観てよかった。もう友達を誘いたくてしょうがない”という存在になりたいですね」

(文中敬称略)

■柳家花緑 プロフィール
1971年8月2日、東京都豊島区生まれ。母は五代目柳家小さんの娘。母の弟は六代目柳家小さん。1980年初めて落語を演じる。1987年、正式に祖父五代目柳家小さんに入門し、前座名九太郎を名乗る。1989年9月、二つ目に昇格し小緑、1994年3月、22歳の若さで真打昇進。柳家花緑を名乗る。
1994(平成6)年 国立演芸場花形演芸会金賞
1994(平成6)年  にっかん飛切落語会努力賞
1995(平成7)年  花形演芸会金賞
1997(平成9)年  花形演芸会大賞
1998(平成10)年 彩の国埼玉芸術劇場「拾年百日亭」殊勲賞
1999(平成11)年 彩の国埼玉芸術劇場「拾年百日亭」大賞
2000(平成12)年 国立演芸場花形演芸会大賞
〇出囃子「お兼ざらし」
「舞踊や古典芸能に詳しい柳家さん喬師匠が選んでくださいました」(本人談)
〇持ちネタ 
「寿限無」「出来心」「野ざらし」「粗忽長屋」「狸札」「時そば」「初天神」「ちりとてちん」「片棒」「蟇の油」「船徳」「明烏」「うまや火事」「御神酒徳利」「平林」「紺屋高尾」「長短」「宮戸川」「らくだ」「子別れ」「目黒のさんま」「二階ぞめき」「天狗裁き」など
「いつでも高座にかけられるのはこれくらい。持ちネタとしては200くらいです」(本人談)
〇公演予定  2020年2月以降の主なホール落語
・2月8日(土)柳家花緑独演会「第九回 渡辺通り 花緑会」電気ビルみらいホール (福岡県)
・2月9日(日)柳家花緑独演会 くまもと森都心プラザホール (熊本県)
・2月11日(火・祝)柳家花緑独演会 久留米座花緑会 久留米シティプラザ 久留米座 (福岡県)
・3月8日(日)扶桑特選落語会 扶桑文化会館 (愛知県)
・3月20日(金・祝)柳家花緑 柳家三三 二人会 リンクモア平安閣市民ホール (青森県)
・4月25日(土)柳家花緑独演会 花緑ごのみ 千葉市文化センターアートホール (千葉県)
※各イベントの詳細については主催者にお問い合わせください。
広尾 晃 ライター

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ひろお こう / Kou Hiroo

1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイースト・プレス)、『もし、あの野球選手がこうなっていたら~データで読み解くプロ野球「たられば」ワールド~』(オークラ出版)など。

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