「量子コンピューター」で世界はどう変わるのか Strangeworks CEOのW・ハーレー氏に聞く
ワーレー:ビジネス誌などで華々しく取り上げられる人々は、実は英雄ではないということに気づいたわけです。神話のような話も流布していますが、結局のところ彼らは単なる起業家なのです。
そこで次の会社では何をしようかと考えたときに、世界を大きく変えるとしたら、それは自分たちが触媒になることでしか成しえないと考えました。量子コンピューティングを民主化すれば、宇宙工学、がん治療などさまざまな分野で100万の英雄に影響を与えられるだろうと。それがStrangeworksを起業して、私たちチームの日々のモチベーションになっています。
量子コンピューティングで飛躍的に処理量が高まるワケ
渋澤:それはすばらしいですね。私は量子コンピューティングについて勉強不足ですし、ぜひ初めて聞くという読者にも簡単に説明してくれますか。
ワーレー:(コインを取り出して)このコインが従来型のコンピューターのプロセッサーのビット(基本単位)だとしましょう。表が1、裏が0です。1か0という二値選択しかない回路設計が、古典コンピューティングですね。それと比較して、量子ビットは、このコインが宙で回転している状態に例えられます。つまり、回転を止めて、観察し、結果を測定するまでは、「スーパーステート」と呼ばれる0でもあり1でもある状態なのです。
渋澤:その状態のほうがコンピューターの情報処理の容量が高まるのですか。
ワーレー:古典ビットとは異なり、量子ビットが加わることで計算能力は指数関数的(量子ビットn個で古典ビットの2のn乗分)に増加します。つまり20量子ビットのシステムは約100万個の古典ビットに匹敵する情報処理ができるということなので非常に強力なわけです。
このように、従来型のコンピューターを上回る点はたくさんありますが、量子コンピューターが従来型に取って替わることはないでしょう。どちらかというと、(ともに使われるという意味での)コプロセッサー、あるいはクラウド型のプロセッサーとして期待されている、と考えるべきです。
渋澤:量子コンピューティングの可能性がちょっとわかってきました。私はAIの限界は1か0かという二択一答であり、人間のように中庸や曖昧さから見出す答え、あるいは突然と答えへ飛躍することができないと思っていました。どうやらプロセッサーが進化し続けているようですね。
ワーレー:おっしゃるとおりです。PCの進化で考えると、CPU(セントラル・プロセシング・ユニット=中央演算処理装置)からGPU(グラフィック系)、そして、TPU(テンサーフロー系)への技術革新があります。将来はBPU(バイオロジカル系)、OPU(オプティカル系)、MPU(モーフィック系)などがあり、これらはすべてコプロセシング・ユニットです。現在、われわれは技術的に重要な変曲点にいるわけです。ワクワクしますね。
渋澤:そうですね。「今は重要な変曲点にいて、急激なピッチで異なる世界へと突入している」という認識が社会に広まることが大事ですね。
ワーレー:アルベルト・アインシュタインが量子力学の解釈をめぐる激しい議論を促したのが1927年。それから55年後の1982年、リチャード・P・ファインマンが提唱した理論を用いて量子コンピューターが実現できるというアイデアをポール・ベニオフが示しました。18年後の2000年にはロスアラモス国立研究所が7量子ビットシステムを開発しました。
そこから、MIT(マサチューセッツ工科大学)が自身のシステムを公表して、7量子ビットから12量子ビットに至るまでにさらに6年がかかっていました。
しかし、ここで驚くべきことが起ります。直近3年で、17から50、72、128と増え、アメリカのメリーランド州にあるIonQという会社の160量子ビットにまで達しています。
渋澤:まさにものすごいスピードで技術革新が高まっている分野なのですね。
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