埼玉・東松山の2病院「統合検討せよ」勧告の波紋 「救急お断り」市民病院の経営が危ない

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こうした問題は東松山市だけではない。国は地域医療を充実させる「地域医療構想」を掲げ、地方自治体に対し病院再編や病床機能の転換を進めるように促しているが、一向に進んでいない。厚労省が再編を検討すべき病院を公表したのは、「(反発が起こることは)ある程度想定した上でのショック療法だった」(複数の医療関係者)という見方が強い。

「高齢化が進み病院もそれに似合った機能に変化しなければならないのに、今のままの現状維持で良いという自治体がほとんどだった」。再編リストの作成にあたった厚労省のワーキンググループメンバーで、奈良県立医科大学の今村知明教授は病院名の公表に踏み切った理由をそう語る。

しかし、公立・公的病院だけをターゲットにしても再編は進まない。日本では民間病院が7割以上(病床数ベース)を占めている。「大都市部は民間が多いが、過疎地では公立病院が地域医療の中心的な役割を担っている。公立病院の見直しを優先する手法が、すべての地域で当てはまるとは限らない」とニッセイ基礎研究所の三原岳氏は言う。

厚労省は民間病院のデータも集積する予定だが、診療実績の公表は病院経営への影響を懸念する医師会から反発の声もある。『週刊東洋経済』の取材に対し加藤勝信・厚労相は、「自治体向けに公表する」と言うにとどめ、具体的な時期と詳細内容は明言を避けた。

性善説では限界

再編が進まないもう1つの理由は、医療圏ごとに将来の医療体制を考える地域医療構想調整会議の体制にある。この会議で再編が協議されるが、そのメンバーは民間含む病院の院長、医師会長など利害関係者だ。「市場縮小に向け互いにどうするかを話し合おうというのは、他産業なら談合と同じ。性善説に基づいている協議では話が進まない」との指摘がある。

ある病院関係者は、「統合は言い出した人が悪者扱いされるから誰も口にできない。本音では『誰かに決めてほしい』と思っている当事者もいる。最終的には設置者である自治体からの要請が必要だろう」と話す。

行政側が再編を決めても、当事者である病院と地域住民の合意を得られなければ破談に終わる。病院再編は地域住民を巻き込んだ議論が必須だ。議論が進まない中で、需要減少や医師不足が進めば、病院の突然死も避けられない。

『週刊東洋経済』1月11日号(1月6日発売)の特集は「病院が壊れる」です。
井艸 恵美 東洋経済 記者

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いぐさ えみ / Emi Igusa

群馬県生まれ。上智大学大学院文学研究科修了。実用ムック編集などを経て、2018年に東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部を経て2020年から調査報道部記者。

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