埼玉・東松山の2病院「統合検討せよ」勧告の波紋

「救急お断り」市民病院の経営が危ない

現在は医師15人体制となり、時間外救急も再開しているが、体制は十分ではない。常勤医師の高齢化で、2人いる内科医は60歳を超えている。当直の半分は非常勤医師で賄うが、救急の要請があっても断らざるを得ないこともある。救急の受け入れ率は年々低下し、収益も右肩下がりだ。

2019年4月に着任した杉山院長は経営改善策を講じているが、医師不足解決には見通しがつかない。「医師を派遣する大学へ人数を増やしてくれるよう要請したが、十分な供給は得られていない」。

東松山医師会病院との再編・統合を迫られている東松山市立市民病院(記者撮影)

こうした苦境は東松山市立市民病院だけではない。東松山医師会病院も「医師の確保が課題だ」と答える。救急体制の整った中核病院がないことから、東松山市を含む比企地域は約3割の患者が他の地域の病院へ搬送されている。川越市や都内の大病院までは30分ほどかかるため、患者にとってのデメリットは大きい。

医師不足と救急体制の手薄さを解決するには重複した診療科を整理するか、統合で医師を1つの中核病院に集めるしかない。こうした意見は市内の関係者の間でささやかれていたが、公言されることはなかった。しかし、「統合」についてパンドラの箱を開けたのは医師を派遣する埼玉医科大学総合医療センターの堤晴彦院長だった。

厚労省の発表後初めて同市の医療関係者が会した会議の場で、堤院長は「2つの病院から医師を出してくれと言われても難しい。400床規模の大病院を作ってもらったほうが派遣しやすい」と語った。

統合は前途多難

しかし、統合は前途多難だ。先の会議の場で前出の東松山市立市民病院の杉山院長は「医療体制を崩壊させないために再編の議論をうやむやにしてはいけない」と危機感を訴える。その一方、東松山医師会病院の松本万夫院長は、「(統合して)大きな病院をつくるのは地域にとってはいいことだと思うが、現実化するのかは希望が薄い。2つの病院の性格が明らかに違う」と口にした。

一般的な外来診療を行う東松山市立市民病院に対し、東松山医師会病院は医師会が設置者で地域の医師会会員である開業医からの紹介により患者が来る仕組みだ。県内の医療関係者からは、「東松山医師会病院は病院長とは別に東松山を含む比企地域の医師会長がいる。誰が主導しているかあいまいで院長が手腕を振るのは難しい」と話す。

経営主体が違う病院同士の話し合いが難航するのは目に見えている。しかし、現状を放置し続けても医師不足は解消されない。2つの病院とも立ち行かなくなれば、困るのは住民だ。

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