妊婦旅行で胎児死亡もあるあまりに悲しい結末 高額な請求も起こるうる「マタ旅」の是非
退院しても、ホテルで安静にしていなければならずベッドから動けない。近くのコンビニに行くことですら許されない場合もある。当然、予定していた観光やアクティビティーは全部キャンセルだ。
飛行機に乗っていいかどうか搭乗許可も得なければ帰国することもできず、予定されていた帰国日までに許可が下りなければ、チケットを取り直さなければいけない。医師がビジネスクラスなど座席クラスを指定する場合もあるそうだ。
また、「ただでさえ、海外旅行では転ぶ人が多く、ケガをする人が少なくない。日本に比べ舗装されていない道が多いことや、慣れない土地で景色を見たり、地図を見たり、同時にたくさんのことをする必要があることも原因なのでは」(青木氏)と言うように、健康な人でもケガをしやすい状況なのに、お腹の大きな妊婦ならなおさら転倒の確率は上がる。
海外旅行先で何かあれば、たとえ英語など現地の言葉ができたとしても、そこは外国。いつも診てくれている病院や先生はいない。不安と戦いつつ、高額な治療費を請求される。母子ともに健康に帰ってこられればいいが、大切な命を落とすこともありうるのだ。
旅先で人工流産を選んだ夫婦
一方、日本への訪日外国人旅行者は年々増加している中で、日本で緊急出産したり、流産する外国人妊婦も急増しているようだ。
聖路加国際病院にも25週で破水し、帝王切開となった東南アジアの女性がいたという。赤ちゃんは4カ月にわたって新生児集中治療室(NICU)へ入院となり、かかった費用は1000万円以上。父母と上の子ども2人+お腹の赤ちゃんでの旅行だったが、お母さんだけが残って父子は帰国した。
その間の在留資格、生まれた子の国籍問題、しかもイスラム教徒だったため、ハラール食への対応など、課題は山積み。大使館と連携を取りながらの4カ月だった。
幸いにもこの母子は無事帰国できたが、悲しい結末を迎えることもある。
ある日搬送されたのは、妊娠21週の欧米人。子宮口が開き、胎胞が出てきていた。このような場合、通常は入院して子宮口を縛る手術をする。しかし、それでも早産の危険があるし、長期入院が必要な場合がある。長時間のフライトに耐えられる確約はないので、もちろん飛行機に乗って帰ることもできない。
結局、入院期間や費用、体調などを考え、この人は人工流産を選ぶことになった。生き延びられるかもしれなかった命を、旅先で失ってしまった。
「お産は必ずハッピーに終えられるわけではない。これは日本人妊婦が同じように海外に行っても起こりうること。後悔するようなことはしてほしくない」と数々の症例を見てきた山中先生は切に訴える。
マタ旅で人気の沖縄県では、2017年3月に沖縄を旅行中の台湾人妊婦が7カ月で緊急出産した。コミュニティーに寄付を呼びかけ、結果、無事出産も、支払いもできた。このとき、支払い以上の寄付金が集まったため、「今後同じようなことが起こった人のために」と県に寄付し、沖縄県外国人観光客医療費問題対策協議会が設立された。
沖縄県観光振興課・外間みか氏は日本人、外国人問わず、「沖縄に旅行に来てほしいが、妊娠中は何かあったときが大変。リスクも考えてきてほしい」とマタ旅について慎重になるように呼びかける。
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