妊婦旅行で胎児死亡もあるあまりに悲しい結末 高額な請求も起こるうる「マタ旅」の是非

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マタ旅は海外旅行だけではなく、国内でも同様に危険だ。

「東京近郊にある巨大テーマパークからの産科緊急受診に対する検討」と題し、順天堂大学医学部附属浦安病院の産婦人科の先生たちが、妊婦の緊急搬送についての事例を発表してから10年。今なおネット上では「妊婦でも安心ディズニーランドの回り方」などの情報が氾濫している。

妊婦は優遇されるなどの都市伝説も出回っているが、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランド広報部によると「アトラクションによって妊娠中は乗れないものもあり、優先的に並ばずに乗れるということもない」とのこと。長時間広い敷地を歩き回り、長蛇の列に並ぶことで体に負荷がかかることは容易に想像できる。

聖路加国際病院の山中先生は「妊婦さんたちから事前に旅行に行っていいかと聞かれることも多いですが、遠くに行くことを好ましくないと止めると大体嫌な顔をされる」と苦笑いする。

高原旅行で感染症のため赤ちゃん死亡

旅先は環境が違うし、食べ物も違う。国内だろうと感染症も起こる。

人間の体は異物が入ったときに排除しようとするが、妊娠中は本来異物のはずの赤ちゃんをお腹の中に受け容れるため、母体の免疫状態が普段よりも弱くなっている。そのため、インフルエンザも重症化しやすく、加熱処理されていない乳製品や食肉加工品や魚介類加工品などにいるリステリア菌に感染しやすくなる。

ある妊婦さんが国内の高原に旅行中、牧場でしぼりたての牛乳を飲んで発熱し、その後、病院に行ったところ、生乳が原因の感染症でお腹の赤ちゃんが感染症で亡くなっていたという悲しい事例もあった。

「みんな『自分は大丈夫』だと思っているけれど、起きてしまったときの代償はあまりに大きい。賛成はしないが、どこかに行くなら、母子手帳と保険証は必携で、近くの病院も必ず調べておいてほしい」(山中先生)

国内旅行なら新幹線で帰れば大丈夫と思うかもしれないが、出血をしてお腹が痛くて不安な中、何時間も電車に乗って帰ることがはたしてできるだろうか。もし早産になり、NICUに入ることになったら、見知らぬ土地で何カ月も入院することになる。早く地元に帰りたくても、保育器にいる赤ちゃんの搬送手段を整えなければ地元に帰ることもできない。

その点、帰省の場合は、もし何かあっても滞在拠点となる場所や人がいるので、その点の心配はいらないため、マタ旅とは別ものとして考えてもよいとのこと。帰省時には、長時間同じ体勢でいる車での移動よりは、飛行機や新幹線での短時間移動がおすすめという。ただ、飛行機は気圧の変動でお腹が張ることがあるので、注意は必要だろう。

日本は世界トップクラスの周産期医療の実績がある。それでも、不用意にお腹の赤ちゃんを危険にさらしていいわけではない。

「たった10カ月の間に顕微鏡でやっと見えるくらいの受精卵から3000gまでお腹の中で育つ、その奇跡の過程を守ってほしい」と山中先生。

旅行する人の多くは無事に帰ってきているだろう。それでも、旅行は赤ちゃんが生まれてから、初めての家族旅行まで待つのはどうだろうか。

吉田 理栄子 ライター/エディター

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よしだ りえこ / Rieko Yoshida

1975年生まれ。徳島県出身。早稲田大学第一文学部卒業後、旅行系出版社などを経て、情報誌編集長就任。産後半年で復職するも、ワークライフバランスに悩み、1年半の試行錯誤の末、2015年秋からフリーランスに転身。一般社団法人美人化計画理事。女性の健康、生き方、働き方などを中心に執筆中。

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