ブームでも「クラフトビール」を店が売らない訳 やむにやまれない事情が小売り側にもある

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家庭用市場は大手が圧倒的なシェアを持っていますが、どれも常温流通のものです。小売店の倉庫や棚は、基本的に大手のビールに合わせて作られており、常温で平積みにすると劣化してしまうクラフトビールには環境が合いません。クラフトビールの取り扱い方法は、牛乳や鮮魚のそれに近く、ビールのためにわざわざ倉庫を刷新したり、店頭に冷蔵設備を入れるほどでもないと判断する店舗が多いのでしょう。

2つ目は、賞味期限が短く、ロスの懸念があることです。仮に冷蔵倉庫があり、店頭の冷蔵ショーケースにも余裕があったとしても、さらにクリアしなければならない問題があります。賞味期限です。

とくに国産の場合、90日という極めて賞味期限の短いものも少なくありません。充填後即日納品されるわけではありませんから、納品の段階でそれなりに賞味期限が減った状態です。これがなかなか痛いわけです。

「ロス懸念」が払拭できない

大手小売店は商品についていわゆる「3分の1ルール」を適用していて、納品時に賞味期限が3分の2残っていなければならず、店頭に並べても残り3分の1を切ったら有無を言わさず棚から外します。

近年、食品ロスが問題になっていることで、「2分の1ルール」を適用する店も増えてはいますが、クラフトビールの場合、もともとの賞味期限が短いので「ロス懸念」はなかなか払拭できないのでしょう。小売店の店頭には、賞味期限が比較的長く、需要が高い缶チューハイやハイボールが目立つにようになりました。

3つ目は、仕入れに関わる業務コストが高いことが挙げられます。国産、輸入を問わずクラフトビールには小規模生産者が多いので、一部の例外を除いて問屋を経由して仕入れることが困難です。問屋を使うほど生産できないのです。

そのため、小売店がビールを仕入れるためには、醸造所に直接発注しなくてはなりません。新規口座開設も手間ではありますが、発注したということは納品の確認、在庫の管理や月次の棚卸し、そして請求書の処理などを仕入先の数だけこなさなくてはならないということでもあります。仕入先が増えて個別に仕入れる点数も増えると業務コストが増加し、非常に煩雑です。

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