ブームでも「クラフトビール」を店が売らない訳 やむにやまれない事情が小売り側にもある

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注目を浴びているものの、小売店がクラフトビールを扱うには多くのハードルがあって簡単ではありません。消費者への需要喚起、小売店の環境改善や意識改革も必要ですが、供給側の醸造所の問題も大きいと言わざるをえません。シーンが成熟しきっていない今は仕方ない部分でもあるので、非常に悩ましいところです。

日本の新興醸造所はとても小さなところばかりです。少量生産でスケールメリットを出せません。通年安定的に消費者が手に入れられる定番品は、ブランディングの観点からも初期の段階から必要だと思いますが、現在バラエティーの豊かさをマーケットから望まれているので限定品をやめるのも難しい。大手ビールメーカーのようにはできないのですから、そこを逆手に取って小ロット・高付加価値の商品を開発して一点突破するしかありません。

流通量は少なくても、ごく少数のコアなファンを熱狂させる商品を開発するところから始まるわけです。そこで生まれた利益を再投資して設備増強をし、製造量を伸ばして少しずつ小売店での取り扱いを増やしていく、という順番になると思われます。今は過渡期であり、本当に苦しい状況なのです。

価格設定を見直す必要性がある

そのためにも、痛みは伴うでしょうが、さらなる高付加価値化と同時に、現状の価格設定は見直さねばなりません。クラフトビール発祥のアメリカだと1本1ドル強の安いものから100ドルを超えるものまであります。カジュアルなものから超がつくほど高級品まであるのです。その幅がとても広く、醸造所やブランドの立ち位置もそれに伴って非常に多様です。

対して日本のクラフトビールはおおむね2つのプライスゾーンに分かれます。まず比較的大きな規模で醸造している会社の200円台後半から300円台のもの。次は500円から700円のもので、小規模醸造所の多くがこの価格帯で販売しています。限定品であっても国産で小瓶1本800円以上のものは多くありません。

競合と価格差がありすぎると売れないと考える醸造所が多いのだと思われますが、もっと価値あるものを醸造し価格を高くしていくべきでしょう。少量生産のメリットを生かし、圧倒的な価値を伴うビールで高利益も実現させていく必要があります。高価でも飲み手に納得してもらえるビールを作り、取り扱い店舗は少ないけれども「探してでも欲しくなるほどの魅力」の発信も今後ますます重要になるのではないでしょうか。

今年10月に消費税が8%から10%に上がりましたが、2020年以降ビールの酒税は3回にわたって段階的に下がっていきます。いい機会だと思いますので、酒税分を値下げするのではなく、その分リッチな作りをして業界全体がより高品質で高い価値のあるビールの醸造に取り組んで欲しいものです。その結果、クラフトビールファンを増やすことに成功すれば街の小売店での取り扱い増加につながると考えています。

沖 俊彦 CRAFT DRINKS代表

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おきとしひこ / Toshhiko Oki

1980年大阪府生まれ。酒販の傍らCRAFT DRINKSにてクラフトビールを中心に最新トレンドや海外事例などを通算650本以上執筆。世界初の特殊構造ワンウェイ容器「キーケグ」を日本に紹介し、販売だけでなく導入支援やマーケティングサポートも行う。2017年、ケグ内二次発酵ドラフトシードルを開発し、2018年には独自にウイスキー樽熟成ビールをプロデュース。また、日本初のキーケグ詰め加炭酸清酒“Draft Sake”(ドラフトサケ)も開発。ビール品評会審査員、セミナー講師も務め、昨年は大学院にて特別講義も。

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