ロシア原発ビジネスは本当に「儲かる」のか 海外原発はほぼ赤字、発注国とのトラブルも

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実は原発輸出がそれ自体では利益をもたらさないことは、ロスアトム関係者も公に認めている。「ロシア企業や他国の企業が海外で建設した原発はほぼすべて赤字だ。これはロシア企業だけの問題ではなく、原発輸出企業すべてに共通する問題だ」と、ロスアトムの電力・安全センター長を務めるプロコフ氏は述べている(2015年6月29日付Pravda.ruへのインタビュー)。

では、なぜ赤字とわかっている原発の輸出を進めるのか。

福島原発事故後に海外受注が活発化

「当社にとって近年の主な収入源は、核燃料供給とウラン濃縮関連サービス。これらのビジネスが海外売り上げの約40%を占めている」とプロコフ氏は言う。

つまりロスアトムは最初から赤字覚悟で原発輸出を進めているのだ。通常の営利企業なら受け入れがたい条件でも、税金や社会保障のための基金を原資とした政府融資があるからこそ受注できる。投資回収の可能性があるとすれば、輸出した原発が安定的に稼働して、ロシア産核燃料の需要が長期的に確保できる場合だけだ。

ロスアトムの年次報告書を見ると、海外での原発受注が急増するのは2011年以降であることがわかる。日本の福島第一原発で過酷事故が起きた後、安全コストが高騰し、採算が悪化するなかで、その流れに逆行するようにロスアトムは海外受注を増やしていった。

しかし海外受注額は2016年度に1300億ドル台に達して以降、横ばい傾向にある。今後、これまでのようなテンポで原発輸出が伸びることは想定しにくい。

あまり知られていないが、ロスアトムは中期的に原発事業の縮小を目指している。同社はビジネスの多角化を進めており、風力発電、放射線医療、北極海航路運営などに進出し、非原子力部門の売上比率を2018年の19%から2030年までに30%へ引き上げる計画だ。

福島原発事故後の貪欲な原発輸出は、世界の原発市場縮小を見越して、核燃料市場シェアを「先食い」する動きであったと読める。しかし反対運動による建設中止や早期稼働停止ともなれば、核燃料事業も破綻しかねない。ビジネスとしては危ない賭けだ。しかも、国民の税金や社会保障のための基金を浪費するリスクのあるギャンブルなのだ。

尾松 亮 作家・ジャーナリスト

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Ryo Omatsu

1978年生まれ。東京大学大学院人文社会研究科修士課程修了。2004~2007年、モスクワ大学文学部大学院に留学。ロシア経済情報誌『ロシア通信』『ダリニ・ボストーク』通信編集長を経て、ロシアCIS地域の社会経済調査・コンサルティングに従事。エネルギー問題を中心に、ロジスティクス、AI、環境問題など幅広い分野で調査経験を持つ。著書『チェルノブイリという経験』『廃炉とは何か』(ともに岩波書店)他。

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